2024年のプロ野球は、横浜DeNAベイスターズが福岡ソフトバンクホークスを破り、26年ぶりの日本一に輝いた。シーズンこそは巨人が4年ぶりにリーグ制覇してベイスターズは3位に甘んじたものの、クライマックスシリーズ(CS)で躍動。阪神タイガースと巨人を倒して日本シリーズ出場の切符を手に入れ、パ・リーグを圧倒的な強さで制したホークスと対決して日本一となった。
11年12月にTBSから球団を買収してから13年。親会社のディー・エヌ・エー(DeNA)のスポーツ事業は、当初こそ赤字を強いられたが、矢継ぎ早に改革を断行。今や同社の収益の柱になる「孝行息子」に育てあげた。
官報に掲載された決算公告によると、横浜DeNAベイスターズの23年12月期の最終利益は12億2100万円。6億4000万円だった前の期に比べて90.7%増と大幅な増益となっている。親会社であるDeNAの決算では、25年4〜6月期のスポーツ事業の売上収益(売上高に相当)は100億円と、主力であるゲーム事業の112億円に迫る規模だ。一方、セグメント利益はゲーム事業の9億円に対して、スポーツ事業は33億円と圧倒。まさに稼ぎ頭だ。
なぜDeNAはスポーツビジネスでも、ここまで躍進できたのか。16年には本拠地である横浜スタジアムの運営会社をTOB(株式公開買い付け)で手中に収め、球団と球場の一体運営に乗り出して経営を軌道に乗せ、買収から5年で黒字化を果たした。その後も新たなファンサービスなどを次々と展開。増え続けた観客動員数は新型コロナウイルス禍で一時しぼんだものの、23年は主催試合で230万人の観衆を集め、過去最高となった。終盤までCS出場を争った今季は、それを上回る水準で、2年連続の更新は確実だ。
DeNAの躍進を支えたのは、徹底的なファン目線の改革。オーナーである南場智子DeNA会長が明確に方針を示している。その1つが、監督の記者会見だ。試合後に勝利チームの監督インタビューがテレビなどで放送されるのは一般的だが、ベイスターズは負けたときも必ず監督インタビューがある。「試合結果にかかわらずインタビューを受けることを、監督に約束してもらっている」(南場会長)。敗戦をどう受け止め、次につなげるか。現場責任者である監督が語るのだ。
結果が厳しいときの振る舞いを求めるのは監督だけではない。
ルーキーたちにも厳しい言葉をあえて投げる
DeNAは毎年、ドラフトで獲得したベイスターズの新人選手を本社に招くイベントを実施している。2月のキャンプインを前に、スーツを着て参加するルーキーたちと南場会長が名刺交換をする恒例行事だ。集うのはスポーツ紙や地元紙の記者がほとんど。南場会長とルーキーが名刺交換する写真や、ドラフト選手の抱負などが報じられ、シーズン開幕前のファンの期待は膨らむ一方だ。
24年は1月26日に実施。ゴールデンルーキーとして注目された度会隆輝選手などが本社を訪れ、それぞれが南場会長と名刺交換をして抱負を語るなど、和やかな雰囲気に包まれていた。
ただ、イベントはこれで終わりではない。名刺交換が終わると、南場会長がルーキーたちにプレゼンをする時間が設けられている。プロの世界に挑む「新入社員」に対して、トップ自らが訓示を出す。この内容が実にシビアなのだ。
南場会長のプレゼンは、序盤は会社紹介などで選手の表情にも笑みがこぼれていた。だが、その後に表示されたスライドの言葉で、会場の空気が引き締まった。
「消えない記録の始まり」
これはどういうことか。プロ野球選手として広く名前が知られるようになると、いろいろな記録が公に残っていく。活躍する記録も残れば、そうでない記録も当然残ることになる。
厳しい環境下での戦いを強いられる選手たち。南場会長がもう一段踏み込んで伝えたメッセージがこれだ。
「くすぶっているときのあなたの姿を、みんなが見ています」
大けがでシーズンを棒に振る、あるいは調子が上がらずに2軍で暮らす日々が続く――。そんな自暴自棄に陥ってしまいそうな状況で、どのような振る舞いをするか。それを周囲は常に見ている、というのだ。
プロ野球選手の寿命は、活躍したとしても40代で終わる。夢破れて、数年でプロ野球人生を終えざるを得ない選手が少なくない。遅かれ早かれやってくる選手寿命を全うした後にどのような人生を送るか。引退後に野球に携われる人はほんの一握り。再就職をするにしても、プロ生活において粗暴な行動や態度などが記録されてしまうと、自らの将来の門戸を閉ざす結果になりかねない。新入社員に対して、引退後のセカンドキャリアも意識した行動をせよという強烈なメッセージだ。
これからプロ野球選手としての華々しい人生が始まるときに、あえてマイナスな未来を想起させるメッセージを送る。ただ、これは選手への愛情があるからこそ。そしてこうも付け加える。
「ファンの皆さんに対する感謝の気持ちをしっかり感じて、かつそれを行動に表してください。これができない人に対して、私は寛容ではないです」
静まりかえったルーキーたちは、プロ野球選手になれたという喜びから、厳しい世界に入ったという現実を突きつけられ、覚悟を迫られた格好だ。
シーズン序盤に大活躍したドラ1ルーキー(ドラフト1位新人)の度会選手。終盤は調子が上がらずに2軍落ちとなった。悔しいシーズンの終わり方をしたが、南場オーナーの言葉が脳裏に残っているに違いない。チームがCSで阪神や巨人としのぎを削っている時期に、プロ野球の若手選手向けの教育リーグ「みやざきフェニックス・リーグ」に参加してバットを振った。
厳しい現実をどう受け止め、どう乗り越えていくかを新人から強烈に意識させる。そして顧客満足度を高めるためのファンサービスも徹底する。この2つが、躍進するチームと成長するDeNAのスポーツビジネスを支えている。
(日経ビジネス 白壁達久)
[日経ビジネス電子版2024年11月5日の記事を再構成]
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