能登半島地震を踏まえた石川県の原子力災害対策が道半ばだ。北陸電力の志賀原子力発電所(石川県志賀町)での事故を想定した24日の防災訓練は地震を踏まえた内容に拡充されたが、生活再建途上にある住民は不参加で、検証できたのは行政の避難誘導などに限られた。同県は2025年度以降に住民の参加を呼びかけ、新たな避難計画の策定を急ぐ。

訓練は志賀町で震度7の地震が発生したとの想定で実施された(24日、志賀原発内の緊急時対策室)

「外部電源が喪失。高圧系での注水手段がなくなった」。24日午前8時30分、志賀原発内の緊急時対策室で被害の状況が報告された。訓練は同7時に志賀町を震度7の地震が襲い、志賀原発の外部電源が喪失。高圧系、低圧系ともに注水機能を失い、放射性物質が外部に放出されたとの想定で実施された。

原子力防災訓練は能登半島地震後初めて。生活再建の途上にある被災者の負担を考慮し、住民には参加を呼びかけなかった。訓練には北陸電力や自衛隊など約130機関、600人程度が参加し、住民役は自治体職員が務めた。

能登半島地震で原子力災害は発生しなかったが、避難道路の寸断や屋内退避に使う放射線防護施設の損傷など想定外の被害が出た。内閣府が4月に公表した調査によると、原発から30キロメートル圏内の緊急防護措置区域(UPZ)内では、道路が損傷し迂回路もない場所が4カ所発生した。県内に20カ所ある放射線防護施設では倒壊のおそれがあるなどの理由で数カ所が使用できなくなった。

石川県は原子力防災計画の改定を進める。同県の飯田重則危機管理監は「計画は確実に見直す必要がある。志賀町や他のUPZ内の自治体、国とも話し合いを進めながら詰めていく」と話す。

放射線防護施設が損傷した場合の対策として、原発から車で15分程の場所にある小学校では、空気を送ると数分で膨らみ放射性物質を防ぐ三菱重工業製の簡易テントの設営訓練が実施された。石川県は同様の設備をまだ導入していないが、効果や必要数を考慮して導入を検討する。

空気で膨らむ簡易テントを視察する石川県の馳浩知事(右)と同県志賀町の稲岡健太郎町長(24日、志賀町)

地震では避難先に指定されている半島北部が被災したことを踏まえ、避難先も変更した。原発から半径5キロメートル圏内の「予防的防護措置準備区域(PAZ)」内で原発の北側に住む住民は、志賀町より北側の能登町や輪島市が被災したとの想定で、金沢市より南にある白山市に避難することとした。

訓練を視察した石川県の馳浩知事は「関係機関で段取りを確認することが大事で、有効な訓練となった」と話した。一方で「(災害時には)パニックが起きるなど様々な状況になりうる。住民が参加した時の困難さも想定しておく必要がある」と述べた。志賀町の稲岡健太郎町長は「常に最悪の事態に備えておかなければいけない」と話した。

自治体職員が住民役を務め、放射線物質の汚染検査などを実施した(24日、石川県かほく市)

原子力災害が起きるほどの大規模災害時には訓練の想定を上回ることが予想されるが、災害対策を充実させることが原発再稼働の大前提になる。住民の参加が難しい中でも継続的な訓練の実施で安全意識を高め、災害対応力を向上させ続けることが重要になる。

(後藤圭次郎)

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