旭化成は15日、主力の樹脂原料「アクリロニトリル(AN)」のタイでの生産から撤退すると発表した。すでに10月末に生産を止めており、12月末で販売も終える。ANの設備停止は国内設備を止めた2014年以来で、全社での年間生産能力は2割減となる。不採算の拠点を閉め、市況変動などによる収益への影響の軽減を目指す。
停止するのは旭化成の持ち分法適用会社で、国営のタイ石油公社(PTT)グループと折半出資する「PTT旭ケミカル」。家電に使われるABS樹脂などの原料となるANのほか、アクリル樹脂原料「MMA」などを生産している。旭化成はANの生産能力で世界3位で、日本、韓国もあわせ年間の生産能力は93万トン。タイ拠点(年20万トン)の停止により2割減る。MMAは今回の停止に伴い国内の川崎拠点のみとなる。
ANは旭化成の石油化学事業の代表的製品で、市況がよい時期は年間で300億円以上の利益を出していたとみられる。だが中国メーカーの増産の影響で市況は低迷し、利益は落ち込んでいる。
タイでは安価で大量に調達できると想定されたプロパンを原料とする独自の製造方法を強みとしていた。だが、タイ国内で生産されるプロパンの量が伸びず、一部輸入に頼った影響で原料コストが上昇し競争力が低下。ABS樹脂などの需要の落ち込みもあり、ここ数年は赤字が続いていた。旭化成は24年3月期にタイ拠点について382億円の減損を含む持ち分法投資損失417億円を計上した。
25〜28年にかけて設備を撤去する。撤退に伴う費用の総額は精査中。25年3月期の業績予想には、同期中に支出が見込まれる撤退費用や収益減の影響は織り込み済み。タイの拠点の停止後は主に韓国の拠点から顧客へ供給する想定で、200人超の従業員はPTTグループ内での転籍などを検討する。
石化事業はANに限らず中国勢の増産の影響で収益が悪化し、同事業の24年3月期の営業利益は84億円の赤字だった。収益面で市況変動に左右されやすい体制からの脱却や保有資産の削減に向け石化事業での構造改革を進めており、5月には石化関連事業の売上高6000億円のうち2000億円程度の事業で売却や撤退を検討する方針を示した。ANについては生産能力が最大の韓国拠点についても「ベストオーナーか考えている」(工藤幸四郎社長)とし、24年度内に方向性を示す考えだ。
残りの4000億円分は生産能力の適正化や他社連携などを進める。基礎化学品のエチレンでは、西日本で三井化学、三菱ケミカルグループと共同事業体を設置し、生産適正化や環境対応で連携する方針を示した。直近ではヘルスケア分野で診断薬や透析などの血液浄化事業の売却も決め、石化事業に限らず全社的な事業構造改革を進めている。
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