RIZAP(ライザップ)グループが2022年に始めた、低価格ジム「chocoZAP(チョコザップ)」の店舗が急拡大している。事業開始からわずか約1年半で店舗数は全国44都道府県で1333店(2月14日現在)に達した。将来的には国内で、大手コンビニエンスストア並みの1万店舗以上の展開を目指すという。

「様々なモノを販売するコンビニはあるが、様々なサービスを提供するコンビニはない。様々なサービスを手軽に楽しめる、町のサブスクのような存在を目指す」

チョコザップの狙いについて、RIZAPグループの瀬戸健社長はこう強調する。

RIZAPグループの瀬戸健社長(写真:都築雅人)

サブスクビジネスはサービス拡充が肝

「町のサブスク」を目指すチョコザップが、顧客拡大のために推進するのがサービスの多角化だ。トレーニングマシンの他に、セルフエステやセルフ脱毛、セルフホワイトニング、セルフネイルといった美容サービス、さらにはワークスペースやシミュレーションゴルフを備えた店舗もある。これらがすべて毎月2980円(税抜き)のサブスクリプション(定額課金)型で、追加料金なしで利用できる。

サブスクリプションビジネスは、顧客拡大のため多くの人の関心を集めるサービス拡充が肝となる。瀬戸社長は「ちょっと特別だったことを追加で金銭的な負担がかかることなく使いたい放題で使っていけるようにしたい。非日常的なことを日常にしていく新しいライフスタイルの提案をしたい」と話す。

そのためチョコザップでは、現在展開するトレーニングマシンや美容系のサービスに加えて、例えばコインランドリーやカラオケといったサービスも検討している様子だ。一部店舗では、チョコザップ会員なら無料で指定の医療機関にて脳のMRI(磁気共鳴画像装置)検査を受けられるサービスのテストも実施している。

同社が1月に一部地域で出していた広告

店舗拡大とサービスの多角化が寄与し、チョコザップの会員数も急増している。2月14日現在の会員数は112万4000人と、フィットネスジムの会員数で国内ナンバーワンに躍り出た。瀬戸社長は「やはり運動はきつい、面倒くさいもの。チョコザップは行って楽しくなるような場所にするため、入り口として様々なサービスを用意している。大量出店と様々なサービスの提供が会員数増加にもつながったのではないか」と話す。

会員数が想定以上に増えているチョコザップ事業は、RIZAPグループ全体の業績改善に寄与し始めている。RIZAPは2月14日、24年3月期の通期連結業績の予想を上方修正した。当初は24年3月期の連結最終損益を90億円の赤字と予想していたところ、チョコザップ事業が期初の予想以上に好調に推移したことなどから、従来予想から21億円プラスの69億円の赤字の見通しとした。

瀬戸社長は「(先行投資で)赤字にしたのはチョコザップだったが、黒字にするのもチョコザップだ」と笑みをこぼす。

町のサブスク定着なるか

RIZAPグループ全体の救世主になりつつあるチョコザップ事業。とはいえ、チョコザップ事業の持続的な成長には課題も浮かび上がる。

1つは、無人店舗は性善説が前提で成り立っていることだ。チョコザップは店舗を無人化営業することでコスト削減を図っている。事故防止や早期対応のため、人工知能(AI)機能が付いている監視カメラを複数設置し、遠隔監視センターでモニタリングをしているという。ただし、利用時のルールは店舗や利用者向けのアプリケーションに記載されているものの、SNSではホワイトニングを予約したらその時間に別の客が無断使用していた、マシンが汚れていた、故障していたといった声も上がる。

チョコザップの拡大戦略は功を奏すか。利用者を飽きさせず、なおかつ安定的な経営をもたらす運営が不可欠だ

こうした課題から、店舗の一部清掃をしてもらう代わりに月額料金の割引が受けられる「フレンドリー会員」制度のテスト運用や、スタッフの巡回など独自の対策を進める。

もう1つは、サービス拡充と運営費増大のジレンマだ。顧客を飽きさせないように来店する動機を増やす必要がある。だが、サービスを拡充するたびにコストが増加する構造だ。効率化のためには定期的なサービス見直しが求められる。

チョコザップは店舗の急拡大を推し進めている。26年3月期の店舗数の目標は現在の倍以上の2800店を目指している。

過去には、業態は異なるが店舗の急拡大により現場のオペレーションが追いつかなくなり経営危機に陥った企業もある。牛丼店「東京チカラめし」などを展開するSANKO MARKETING FOODSや、ヘアカット専門店「QBハウス」を運営するキュービーネットホールディングスなどだ。

一方、カラオケ店「まねきねこ」を直営で運営するコシダカホールディングスは、97年から出店コストを抑えて店舗数を急拡大し、業界大手にのし上がった。新型コロナウイルス禍で苦しんだカラオケ業界だが、同社は大幅な赤字を出しながらも出店を拡大し、23年8月期にカラオケ事業で前期比44.6%増の過去最高の売上高を達成した。新しいサービスの創造を経営方針に掲げ、カラオケ以外のサービスの充実も図っている。

チョコザップの店舗数は1000店を超え、スケールメリットにより新サービスのコストや新規出店コストを抑えられる。チョコザップの店舗数急拡大は吉と出るか凶と出るか。ネット上ではサブスク疲れも見られる。町のサブスクを定着させるためには、利用者を飽きさせず、なおかつ安定的な経営をもたらす運営が欠かせない。

(日経ビジネス 原田寧々)

[日経ビジネス電子版 2024年3月6日の記事を再構成]

日経ビジネス電子版

週刊経済誌「日経ビジネス」と「日経ビジネス電子版」の記事をスマートフォン、タブレット、パソコンでお読みいただけます。日経読者なら割引料金でご利用いただけます。

詳細・お申し込みはこちら
https://info.nikkei.com/nb/subscription-nk/

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。