日本経済新聞社はスイスのビジネススクールIMDと共同で10月28〜29日、都内で日経フォーラム第26回「世界経営者会議」を開催します。テーマは「潮目をとらえ、変革を主導するリーダーシップ」。生成AI(人工知能)の普及やサプライチェーンの再編など環境が大きく変わる中、企業トップはどう動くのか。リーダーシップや経営戦略について著名経営者らが議論します。登壇者を紹介する特集を掲載します。
ヘンリー・クラビス KKR 共同創業者兼共同会長
買収ファンドの先駆者
米投資会社KKRをいとこのジョージ・ロバーツ氏らと1976年に創業した。6000億ドル(約90兆円)超の資産を運用する世界的機関投資家に育てた。KKRは買収ファンドの創始者だ。成長が鈍った企業を買収し資本や経営陣を提供して経営を改革する。
70年代、多くの米企業は経営不振でもトップが手を打たず、取締役会も放置した。クラビス氏らの登場で経営者の説明責任が強まり企業は成長を取り戻した。企業価値を高め、売却で得た収益は公的年金基金に還元する。教師や消防士ら市井の人々も潤う資本主義の一形態を示した。
もちろんM&A(合併・買収)の専門家だ。89年に傘下に収めた食品大手RJRナビスコの買収額は当時ケタ違いの300億ドル超。買収の内幕は書籍化され、M&Aの教科書になった。その後、世界に進出し、投資先もクレジットや不動産など多岐にわたる。
日本には外資系ファンドの草分けとして2006年に進出した。日立製作所から買収した半導体製造装置メーカー、KOKUSAI ELECTRICが昨年株を上場し、株価が大幅高になるなど実績を重ねる。恵まれない若者への教育機会の提供など慈善活動でも40年に及ぶ経験を持つ。
張在勲 現代自動車 社長兼CEO
日本は挑戦すべき場所
韓国最大の自動車メーカー、現代自動車を社長兼最高経営責任者(CEO)として率いる。起亜などを含む現代自動車グループの鄭義宣(チョン・ウィソン)会長の側近。電気自動車(EV)市場の拡大と停滞期のかじ取りを担い、自動車製造のサプライチェーン(供給網)強化を進める。
とりわけ日本市場の開拓に力を入れてきた。22年に日本でEVと燃料電池車(FCV)の販売を始めた。09年に日本での乗用車販売から撤退して以来、約12年ぶりの再進出だった。
日本では、カーシェアリングやネット販売など新たな販売モデルも展開している。「多くのことを学ぶべき場所であり、挑戦すべき場所」と言及する日本市場への関心は高い。
高麗大学社会学科を卒業後、米ボストン大大学院で経営学修士号(MBA)を取得した。現代自に就職した後、生産開発企画や顧客サービス、人材などで役員の経歴を重ね、高級車ブランド「ジェネシス」の事業部トップを務めた。
韓国内ではESG(環境・社会・企業統治)経営のリーダーシップに高い評価を得ている。脱炭素化にコミットする姿勢を強調し、新たな燃料として水素の生産や運搬、保存手法の確立に力を入れている。
オスカー・ガルシア・マセイラス インディテックス CEO
環境負荷低減、取り組む
「ZARA」などを展開するアパレル世界最大手、スペインのインディテックスに法律顧問兼取締役会書記として2021年に入社。同年に最高経営責任者(CEO)に就任した。24年1月期の売上高は359億ユーロと就任直後の22年1月期から3割増えた。
3月には今後2年間で物流の強化に約18億ユーロを投じると発表。スペイン国内にZARA、ベルシュカ、テンペの各ブランドで物流センターの新設を計画するなど、さらなる販売拡大へ向けた動きを進めている。
環境対応にも注力する。22年にZARAで購入した衣料品を再販、修理、寄付できるサービス「ZARA Pre-Owned」を英国で開始。ドイツやフランスでも導入を進めており、25年までに全ての戦略的市場でも開始する。
1975年にインディテックスが本社を置くスペインのラコルーニャで生まれた。2005年にスペインの大手銀行に入行。21年にインディテックスに入社するまでにサンタンデール銀行など4つの金融機関を渡り歩いた。
アパレル業界の国際的な環境負荷に向けた取り組み「ファッション協定」の運営委員会の共同議長や、衣料業界では唯一の欧州実業家円卓会議のメンバーも務める。
佐々木裕 NTTデータグループ 社長
グループ大再編を主導
システム開発業界の国内最大手を6月から率いる。1990年にNTTデータ通信(現NTTデータグループ)に入社し、業務システム開発やIT(情報技術)サービスの提供など法人事業に携わってきた。近年は人工知能(AI)などデジタル関連事業で中心的な役割を果たした。
2021年に取締役常務執行役員に就き、大幅な組織再編をリードした。22年にNTT傘下の海外事業を集約したNTTリミテッドを譲り受け、海外事業子会社として設立したNTTデータインクに統合した。23年には持ち株会社制を導入し傘下にNTTデータインクと国内事業のNTTデータを収める体制に移行。持ち株会社の副社長とNTTデータの社長に就いた。
24年6月にNTTデータグループ社長に昇格。以来、世界のデジタルトランスフォーメーション(DX)需要を取り込むため事業拡大のアクセルを踏む。国内では25年度までにM&A(合併・買収)に約1000億円投資する計画を進めている。IT人材不足の解消やコンサルティング力強化などが狙いだ。
売上高全体の6割を占める海外事業では、中長期の収益基盤を確立するためデータセンターへの投資を加速している。
ビベク・チャーンド・セーガル マザーサン・グループ 会長
車産業に貢献、殿堂入り
世界44カ国に拠点を置く自動車部品大手、マザーサン・グループの会長を務める。1975年に母親とともにインド・デリーで同社を設立した。約50年たった今も第一線に立ち、存在感を示している。成長領域を見いだす先見性が武器で、40件を超える買収を成功させてきた。2024年には自動車産業の発展に貢献した人をたたえる「米自動車殿堂」に選出され、殿堂入りを果たした。
マザーサンは商社として創業し、1977年に家庭用ケーブルの生産を始めた。自動車業界には80年代から関わり、インド向け車種にワイヤハーネス(組み電線)を提供するなどして事業を拡大した。2000年以降は欧州などにも拠点を広げ、売上高3兆円規模の一大グループに成長した。現在は世界400以上の施設で、19万人以上の従業員を雇用する。
自動車事業に参入した当初から日本企業と提携し、1986年に住友電装と合弁で設立したサンバルダナ・マザーサン・インターナショナルはグループの基幹企業となっている。
奥沢宏幸 第一三共 社長兼COO
がん領域で世界上位へ
2005年に「三共」と「第一製薬」が共同持ち株会社形式で経営統合、07年に現在の「第一三共」が誕生した。奥沢宏幸社長兼最高執行責任者(COO)は1986年に三共に入社。ドイツに計8年駐在するなど国際派として知られる。最高財務責任者(CFO)などを歴任して23年4月に社長兼COOに就任した。
力を入れているのはがん領域だ。新型抗がん剤「エンハーツ」はバイオ医薬品とがん細胞を攻撃する薬剤を組み合わせた抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれ、高い治療効果がある。
第一三共はADCで世界をリードする。23年10月には開発中のADCをめぐり、米メルクと最大220億ドルを受け取る提携を結んだ。がん領域製品の売上高は23年に世界15位で、30年にはトップ10入りを目指す。
ワクチン開発にも注力する。国産初の新型コロナウイルスワクチンを開発、23年12月から使われている。奥沢氏は「日本の公衆衛生、安全保障の観点で意義がある。責任をしっかり果たしていきたい」と話す。
奥田修 中外製薬 社長兼CEO
デジタル創薬 強み磨く
スイスのロシュ傘下の国内製薬大手、中外製薬の社長を2020年から務め、21年に最高経営責任者(CEO)に就任した。1987年岐阜薬科大学を卒業し、同年入社した。主力品である関節リウマチ治療薬「アクテムラ」の開発責任者を務めてロシュとの協業に貢献した。2015年から経営企画部長として、2度の中期経営計画の策定を主導した。
中外製薬はバイオ医薬品に強みを持つ技術主導型の企業で、ロシュとの提携を生かしながら効率的に新薬を生み出す。時価総額は10兆円を超え、国内製薬ではトップクラスだ。デジタルテクノロジーの活用や組織の刷新を進めながら、創薬や製造技術に磨きをかける。
5月には血液の希少疾患である「発作性夜間ヘモグロビン尿症」向けの抗体医薬品「ピアスカイ」を国内で発売した。欧米でも承認を得ている。30年に向けた成長戦略「TOPI(トップアイ)2030」を進めており、次世代の医薬品に位置付ける「中分子医薬」の実用化などに注力する。
大崎真孝 エヌビディア 日本代表兼米国本社副社長
現場改良が日本の力
米半導体大手エヌビディアで2014年から日本代表を務め、米国本社の副社長を兼務する。テキサス・インスツルメンツで経験を積み、エヌビディアではゲームのグラフィックスやスーパーコンピューターなど向けに顧客を開拓してきた。
人工知能(AI)に使う画像処理半導体(GPU)を手掛けるエヌビディアの時価総額は一時3兆ドルを超え、米アップルなどを上回り世界首位となった。大崎氏は「日本には現場で改良を重ねて良いものを作り上げる力がある。グローバルなAIプラットフォームを現場に採用することで、ユニークなAIが生まれる」と期待をかける。
申真衣 GENDA 社長
エンタメ分野をけん引
アミューズメント施設「GiGO」を運営するGENDAを2018年に片岡尚会長と共同で設立。19年から社長を務める。23年7月に東証グロースに上場した。起業する前は07年にゴールドマン・サックス証券に入社し、17年にマネージングディレクターに就任した。
M&A(合併・買収)による事業拡大を戦略として、ゲームセンターやカラオケチェーン、映画配給会社などを買収してきた。エンターテインメント分野でのけん引役を目指し、米国で無人ゲームコーナーを運営する米ナショナル・エンターテインメント・ネットワークを買収するなど海外事業も伸ばしている。
プトリ・タンジュン CTコープ 監査役
実業家、SNSでも力
1996年生まれの女性実業家で、SNSで影響力があるインフルエンサーとしても知られる。父は小売りや金融、メディアなどを手掛けるインドネシアの新興財閥CTコープの創業者であるハイルル・タンジュン氏。高校生だった15歳でイベント企画会社を起業した。新進気鋭のアーティストらを紹介するウェブサイト運営会社でも経営幹部を務めた。
2019年にはジョコ大統領にインドネシア大統領補佐官に任命され、中小企業のデジタル化支援などに携わってきた。CTコープのグループ企業であるトランスメディア取締役も務めている。
デビッド・ハ サカナAI 共同創業者兼CEO
日本発のAIモデルを
以前はグーグルでAI研究者として勤務し、日本でGoogle Brain Researchチームを率いていた。研究対象は、複雑系、自己組織化、機械学習の創造的な応用など。23年にサカナAIを設立し、CEOを務める。
グーグルに入社する前は金融デリバティブのトレーダーだった。ゴールドマン・サックスの日本法人でマネージング・ディレクターとして金利取引の責任者を務めていた。トロント大学で工学の学士号を取得し、東京大学で博士号を取得している。
クリストフ・ゲバルド クライムワークス 共同創業者兼共同CEO
CO2回収技術で注目
大気中の二酸化炭素(CO2)を回収・除去する「直接空気回収(DAC)」の技術開発を進めるスイスの新興企業「クライムワークス」を率いる。2009年にヤン・ブルツバッハ氏と共同で同社を設立し、近年注目を集めるDACに15年以上携わってきた。
チューリヒ工科大学で機械工学の博士号を取得。クライムワークスでは主に財務やプロジェクト開発、人事などを担当している。同社は21年にアイスランドで年4000トンのCO2回収能力を持つプラントを、24年5月には最大年3万6000トンのCO2を回収できる大規模プラントを稼働した。
森田隆之 NEC 社長兼CEO
DX支援、技術力で勝負
40年以上のNECのキャリアの中では海外事業が長い。6年間米国に駐在したほか、2011年から7年間は海外事業責任者を務めた。
M&A(合併・買収)の経験も豊富だ。半導体事業の再編やパソコン事業における合弁会社設立、コンサルティング会社の買収などを主導した。最高財務責任者(CFO)時代には20年にスイスの金融ソフト大手、アバロクを約2360億円で買収した。NECにとって過去最大の買収案件となった。
昨今は国内の旺盛なデジタルトランスフォーメーション(DX)需要の取り込みが順調だ。5月にはDX支援サービスの新ブランド「ブルーステラ」を打ち出した。コンサルティングやシステムの実装・運用などをパッケージ化し、顧客に課題解決策を提案する。
山北栄二郎 JTB 社長兼CEO
旅行から「交流創造」へ
旅行最大手JTB社長として2020年6月から同社を率いる。経営企画室などを経て、07年から欧州のグループ会社で役員や経営トップを歴任。M&A(合併・買収)案件のPMI(買収後の組織統合)など、海外事業の拡大に手腕をふるった。
新型コロナウイルス下では、店舗の統廃合などのコスト構造改革や店舗接客のデジタル化に着手した。有人店舗による宿泊施設や交通機関の予約手数料に依存した事業モデルからの脱却を進め、旅行以外の収益基盤を拡大。ビジネスイベントの運営や観光エリアの開発といった組織や地域の課題解決も目指す「交流創造事業」に注力する。
津坂美樹 日本マイクロソフト 社長
AIで事業創出後押し
2023年に日本マイクロソフトの社長に就任した。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)でシニアパートナー&マネージングダイレクターを務め、2期6年にわたって経営会議のメンバーだった。幅広い業界で顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進した。
日本マイクロソフトでは、生成AI(人工知能)を活用して顧客の業務効率化や新規ビジネス創出を後押しする。世界で6カ所目となる開発支援拠点を神戸市に開設し、事業のシステム実装を請け負う。官民共同で生成AIに関するガイドラインの議論にも取り組む。
ドム・テイラー ウーバーテクノロジーズ モビリティ事業アジア太平洋地域代表
日本で事業拡大狙う
米ライドシェア大手のウーバーテクノロジーズでアジア太平洋地域におけるモビリティ事業の責任者を務める。日本、インド、オーストラリアなど規模が大きく急成長する国で、サービス拡大と乗客やドライバーの安全管理を担う。2024年8月に家族とともに東京に移住した。
14年に母国のオーストラリア・シドニーでウーバーに入社。以前は米モルガン・スタンレーと豪マッコーリー・グループで投資銀行業務に就いていた。PwCでコンサルタントを務めた経験も持つ。英オックスフォード大学で経済史修士、豪メルボルン大学で商学などの学士を取得した。
樋口泰行 パナソニックコネクト プレジデント兼CEO
製造業にソフト視点
パナソニックホールディングス(HD)傘下でサプライチェーン(供給網)管理システムなどを手がけるパナソニックコネクトを率いる。日本マイクロソフト社長などを務めたプロ経営者だが、新卒時に入社したのは松下電器産業。2017年に古巣に復帰し新風を吹き込む。
ものづくりに強みを持つパナソニックHDで、ソフト視点の改革を先導する。社員の生産性を高めるため、対話型AI(人工知能)など新たな技術も積極的に取り入れた。業務用プロジェクター事業の売却を決めるなど、事業構造の見直しにも積極的だ。恐れずに改革に取り組むことが経営者には必要だと話す。
米倉英一 スカパーJSAT 社長
宇宙で事業領域広げる
衛星放送プラットフォーム「スカパー!」の運営と人工衛星17基の運用が主力のスカパーJSATホールディングス(HD)を率いる。伊藤忠商事の専務執行役員を経て2018年にスカパーJSATHD副社長、19年に社長に就任。自社の衛星を活用した宇宙ビジネスに積極的な投資を続けてきた。
単なる通信衛星の運用にとどまらず、安全保障分野やスペースデブリ(宇宙ごみ)など、新規事業に相次いで進出。国内外の宇宙関連スタートアップにも投資する。NTTと提携し、衛星同士を光通信でつないだ統合コンピューターネットワークの構想も進める。
山田裕行 KPMGジャパン 共同チェアマン
DX・SXで価値創出
大手会計事務所KPMGの日本拠点、KPMGジャパンの共同チェアマン。監査や税務、コンサルティングなど各事業の垣根を越え、デジタルトランスフォーメーション(DX)とサステナビリティートランスフォーメーション(SX)を通じた新たな価値の創出に取り組む。
DXでは生成AI(人工知能)の開発・活用をグループ全体で推進する。データ活用やその分析力の強化に向けた人材育成にも注力する。傘下のKPMGアドバイザリーライトハウスにてデータ戦略や高度なデータ分析手法を確立し、グループ各社を通じて顧客に知見を提供していく体制を構築した。
アタヌ・ダス ACWAパワー 上級副社長兼プロジェクトファイナンス責任者
アジア全域で事業構築
発電や海水淡水化、グリーン水素分野で世界をリードするACWAパワーの上級副社長を務める。ACWAパワーには10年以上勤務し、グローバルプロジェクトファイナンス(事業融資)部門の監督責任者として、プロジェクトファイナンスの組成や調達などを担っている。
ACWAパワー入社以前はアラブ首長国連邦(UAE)やインドの金融機関などに勤務。中東、インド、アジア全域で、ストラクチャードファイナンス(仕組み金融)やプロジェクトファイナンスのバンカーとして活躍していた。インド工科大学ルールキー校で土木工学の学士号、デリー大学経営学部でファイナンスのMBAを取得している。
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