米インテルのゲルシンガーCEOを取り巻く事業環境は厳しさを増している(24年6月、台湾・台北市)=ロイター

長年にわたり半導体業界をけん引してきた米インテルの苦境が深まっている。業績が悪化して株価が急落し、買収観測が浮上した。インテルの浮沈は製造装置などを供給する日本の関連企業に影響を及ぼす。同社の経営の失敗には多くの企業が学ぶべき点もある。

2024年4〜6月期までの10四半期のうちインテルが営業黒字を計上したのは2四半期だけだ。8月の決算発表で赤字は拡大、業績悪化が一段と鮮明になった。株式市場では24年通年でも、1986年以来38年ぶりの営業赤字に陥るとの見方が強まっている。

人員削減などのコスト削減策を発表したが、株価の低迷が続く。時価総額は一時1000億ドル(約14兆9000億円)を割り込み、米エヌビディアの約30分の1、米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)との比較でも半分以下になった。同業の米クアルコムなどによる買収観測が出た。

業績悪化の理由のひとつは、性能を左右する微細化で出遅れたことだ。21年に就任したパット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)は製造部門への投資を増やして台湾積体電路製造(TSMC)を追い上げる方針を掲げたが、負担が重い。外部から製造を受託する事業も軌道に乗っていない。

米政府はインテルを半導体の国内生産を増やす戦略の担い手と位置づけており、不振が続けば再考を迫られかねない。同社を大口顧客とする日本の製造装置や部素材のメーカーも影響を免れず、インテルの動向を注視してリスク管理を強化することが急務となる。

インテルがパソコン向けの半導体で覇権を握る一方、スマートフォンや自動車といった新たな用途を開拓できず、顧客基盤を広げられなかったことも影を落としている。クアルコムがスマホ、エヌビディアが人工知能(AI)に活路を見いだしたのとは対照的だ。

パソコンにおける成功体験が大きく、将来への種まきがおろそかになったとの社内外からの指摘は重い。同社の苦境は既存事業の成熟を見据えて先行投資し、事業の芽を粘り強く育てることがいかに大切かを浮き彫りにした。

用途の開拓が重要との教訓は技術の先進性ばかりに注力し、どう使うかという視点が乏しくなりがちな日本企業にも当てはまる。先端半導体の国内生産を目指しているラピダスはもちろんのこと、多くの企業が他山の石とすべきだ。

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