日銀は20日の政策決定会合で、現行の政策金利0.25%を維持する決定をしました。今回は見送りましたが、今後、追加利上げが行われる見込みは大きいです。今年3月と7月の日銀の利上げで、住宅ローン金利の引き上げが一部のネット銀行で始まっており、「金利のある世界」の住宅の購入は何を重視すればいいのでしょうか。不動産コンサルティングの牧野知弘さんに聞きました。(市川千晴、白山泉)

 まきの・ともひろ 東大経済学部卒。1983年、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行後、ボストンコンサルティンググループ、三井不動産などを経て独立。オラガ総研を立ち上げ、全国の不動産プロデュースを行う。著書に「なぜマンションは高騰しているのか」など多数。

「金利のある時代」の住宅の選び方について語る不動産プロデユーサーの牧野知弘さん=東京都千代田区で

◆新築マンションは理屈に合わない高価格に

 ―今回は利上げを見送りましが、日銀の17年ぶりの利上げは不動産市場にどんな影響を与えていますか。  「今後も少なくとも1%程度まで引き上げる必要があると日銀審議委員も発言しており、さらなる利上げが既に予測されています。7月の追加利上げと株式市場の暴落で不動産市場では逆風が吹き始めています。将来的に金利が1%程度引き上げられれば、住宅ローン金利の引き上げは必須となり、変動金利でローンを組んでいる家庭では月々の返済額も膨らみます。食品、電気、ガソリン代など物価高が続く中での支出増は、家計に大きな影響を与えるでしょう。  ―都心の新築マンションが、都民の手に届きにくくなったという話もよく聞きます。  「ここ数年、地価の値上げに加えて建築費が3、4割上がっており価格を押し上げています。ただ同じ中古物件の売買サイトと賃貸サイトを比較すると、マーケット相場としての賃貸料が低いのに売却価格が異常に高い状態になり、投資利回りが確保できないレベルの物件が目立ちます。高額でも購入するのは国内外の投資家ですが、利回りが低くなりすぎて手が出ない状況になっています。そのくらい理屈に合わない価格に高騰しているわけです」

◆中古物件の理想の築年数は…

 ―若い人などにとって、住宅の買い時はいつでしょうか?  「家族や家計の事情を最優先してほしいです。子どもの成長で今の住居が手狭になった時などです。一方で、金利が上昇する直前の今のうちに買おうと、身の丈に合わないローンを組んで新築マンションを購入することはお勧めできません」

「金利のある時代」の住宅の選び方について語る不動産プロデユーサーの牧野知弘さん=東京都千代田区で

―物件探しで気を付けなければいけない点を教えてください。  「最寄り駅から現地までの状況を、必ず自分の足で歩き、目で確認してください。駅の構造や現地までのアップダウン、交通事情から、想定以上に時間が掛かる物件もあります。中古マンションでは、管理組合の議事録を閲覧できればマンション内部の状況が分かると思います。理想は、設備も問題なく使用できる築7、8年のマンションです」

◆2030年に状況は激変する?

 ―首都圏でお勧めの地域はどこでしょうか?  「鉄道の延伸で都心直通のエリアが広がっているだけでなく、リモートワークも浸透してきたので、郊外の衛星都市も有力な選択肢です」  「私の定義で、自治体の新陳代謝率という数値があります。自治体が公表する転入者数と転出者数の合計を、年初の人口で割ったものです。代謝率が10%を超えると、1年で人口の1割が入れ替わる状態となり、不動産価格が上昇する傾向があります。例えば埼玉県川口市や朝霞市は値上がりが見込める高い新陳代謝率ですが、都内に比べてまだ不動産価格はお手ごろで、都心への通勤もスムーズです。子育て支援策の充実した千葉県流山市も良いでしょう」  ―今後の不動産市場はどうなると見てますか?  「2030年ごろに首都圏の不動産状況が激変すると推測しています。65歳以上の高齢者は914万人いますが半数が75歳以上の後期高齢者です。高齢化がさらに進み練馬、世田谷、大田区などで相続問題からマンションや一戸建てを賃貸に出したり、手放す人が増えるとみています。一戸建ての賃貸物件も増えているので、価格がこなれるまでの期間は賃貸物件で暮らすのも悪くないでしょう。もちろん賃貸の暮らしを続けるのもよいと思います」 

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