フリーランスとは、2021年の公正取引委員会、厚生労働省などのガイドラインで「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」と定義されている。この定義は「フリーランス新法」(「特定受託事業者の取引条件の適正化等に関する法律」)の適用対象者である「特定受託事業者」の定義でも踏襲されている。

22年の就業構造基本調査(総務省)では、初めて、この定義によるフリーランスの人数も調査された。それによれば、本業としてフリーランスとして働く人は209万人で、全体に占める割合は3.1%、副業としてフリーランスで働くのは48万人だった。

下請法を基にしたフリーランス保護

新法では、フリーランスの契約条件を保護するため、下請法(「下請代金支払遅延等防止法」)と同様の規定が定められた。つまり、フリーランスはガイドラインと同様に、法律上も「自営業主」とみなされている。

新法によると、契約条件を明確に定めた書面の交付義務のほか、1カ月以上の期間の業務委託について、報酬の支払い遅延や著しく低い報酬を定める「買いたたき」などの行為が禁止されることになった。下請法は、発注者が資本金1000万円以上でないと適用されず、フリーランスの相手方となる発注者の約4割が資本金1000万円以下であるため(内閣官房「新しい資本主義実現本部」事務局資料、2022年4月)、新法によって、労働者に近い働き方をしているフリーランスの保護が拡大されることになった。

また、ハラスメントの相談体制の整備や育児や介護中のフリーランスに対する発注者の配慮義務なども定められた。1年以上の継続的業務委託においては30日以上の解約予告義務も定められた。同法の監督には、取引条件の保護については公取委、労働法上の保護については労働局が関わることとなった。

フリーランス新法の骨子

  • 契約条件を定めた書面交付する義務
  • 著しく低い報酬や支払い遅延など「買いたたき」禁止
  • ハラスメント相談体制の整備
  • 育児・介護中に配慮する義務
  • 30日以上の解約予告義務

新法制定に至った背景として、1956年に制定された下請法の存在が大きい。下請企業と相手方との間の取引条件を規制する下請法は、独禁法における優越的地位の濫用規制の特別法であり、社会政策的な機能を持つ法律である。

欧米では、優越的地位の濫用規制は、市場支配的な地位の濫用を規制するのに対し、日本では、特定の取引関係における優越を問題にしている点で、欧米とはやや異なる。このように、日本独特の経済法である下請法を前提として、フリーランス新法ではフリーランスの保護のために、下請法の規制を拡大するという方策が取られた。

フリーランスは自営業者か労働者か

新法によって、発注者によって定められた一方的な取引条件からフリーランスが保護される可能性が高まる。

例えば、フリーランスのライターが、取引先から「ChatGPTを使うから、報酬を半減してほしい」と要請され、公取委に相談したところ、公取委が、「十分な協議を経ずに発注者の事情のみで価格を決めた場合、『買いたたき』に当たる可能性がある」との説明があったという(小山紘一『クリエイティブ系フリーランスをめぐる法的対応』=法律のひろば77巻4号37ページ、2024年)。これまでは、このような問題に対処するための法規制はなかったことを考えれば、新法には重要な意義が認められる。

しかし、新法の制定過程では、フリーランスがそもそも本当に自営業者なのかという問題が検討されなかった点が問題である。フリーランス(特定受託事業者)の定義は広く、この中には、自営業者ではなく、本当は労働者であり、労働法上の法律が適用されるべき人が含まれている可能性がある。

外形上はフリーランスとして就労している人が、本当は労働者ではないのかという問題は、「労働者性」または「労働者概念」と呼ばれている。そこで、次に、この問題について簡単に見ていきたい。

労働者性

労働法が適用されるためには、問題となった就労者が「労働者」であることが認められなければならない。

それでは、労働者とはどのように定義されているのだろうか。労働者性は、細かい違いはあるが、どの国においても「指揮命令拘束性」によって定義されている。労働契約とは、労働者が使用者の指揮命令に従った労働を提供し、これに対して、使用者が労働者に賃金を支払うという契約であるからである。日本の法律では、指揮命令拘束性は「使用されて」という文言で表現されている(労働基準法9条、労働契約法6条)。

歴史的には、指揮命令拘束性の沿革は、主人(マスター)と奉公人(サーバント)の関係に由来する。また、産業革命後に生まれた工場労働者を保護するための立法が、現代の労働法に直接つながるものであるので、工場労働者は労働者の典型である。奉公人も工場労働者も、定められた時間と場所で、使用者から指示された労働を提供する。

命じられた仕事を断ることはできない。そして、とくに奉公人は、主人と人的な信頼関係に基づいて役務を提供するので、自ら役務を提供しなければならず、使用者の許可なく、他の人に代わってもらうことはできない。

このような労働者の原型とされた働き方から、現在の労働者性の基準として、(1)業務諾否の自由の有無(2)時間的・場所的拘束性(3)業務内容・業務遂行方法に対する指揮監督の有無(4)代替性の有無-という指揮命令拘束性を具体的に示す事情が導かれた。

ギグワーカーの労働者性を認めたEU

欧米では、約10年前からアプリを通じて、単発の仕事を請け負う就労者の労働者性が大きな問題となってきた。音楽家が集まって単発のセッションを行うことを意味する「ギグ」という言葉から来ている。

欧米では、ウーバーなどの自家用車を用いたタクシー(ライドシェア)の運転手やフードデリバリーの配達員がギグワークの典型である。日本でも、ウーバーイーツの配達員は身近な存在になっている。ギグワーカーは、プラットフォーマーが開発したアプリを通じて、仕事のオファーを受けるので、プラットフォーム就労者とも呼ばれている。

ギグワーカーは、労働法の適用される労働者ではなく、自営業者として扱われていたため、欧米では、ギグワーカーの労働者性が大きな問題となった。

日本が、経済法と労働法の両方の性格を持つ特別法によって、ギグワーカーを含むフリーランスを保護する方向性を取ったのに対して、欧州連合(EU)では、各国の最上級審において、2020年前後に、ライドシェアの運転手やフードデリバリーの配達員の労働者性が相次いで認められていた。

24年3月に採択が決定したプラットフォーム労働指令によって、ギグワーカーの「労働者性」を認め、労働法の規制を適用する方向性が明らかとなった。具体的には、ギグワーカーの労働者性を推定する規定を設ける義務が各国に課されることとなった。

このように欧州では労働者性を広く認めることで、ギグワーカーの保護を実現しようとしている。

労働者性を棚上げした立法

日本では、ライドシェアが2024年4月に限定的に解禁された。運転手は、既存のタクシー会社に雇用されることになっており、慎重に導入が進められている。

また、アマゾンの配送運転手については、労働局が下請の運送会社と業務委託契約を締結していた運転手の労働者性を肯定し、労災の適用を認めた(読売新聞2023年11月29日)。その結果、アマゾンは、現在、孫請を廃止するとともに、1次下請に対し、運転手を雇用するよう要請するようになっているようである。

労働者性の見直しが進むことは望ましい。ただ、新法は労働者性を十分に問わないまま、フリーランスの保護を先に進めてしまったことで、問題を残している。

例えば、労災保険の扱いである。新法の制定と並行して、フリーランスには自ら保険料を支払うことで保険適用される「特別加入」が認められたが、労働者であれば、保険料は使用者が支払うことになっている。仮にフリーランスにも労働者性が認められるのであれば、保険料を自ら負担する必要はないはずだ。

フリーランス新法の制定に当たり、本来は労働者性を広く解釈することで、フリーランスを保護することも検討すべきだった。だが、労働者性は「難問」なため、棚上げしたまま、下請法とともに、一部の労働法の規制をフリーランスに適用することになった。その後、労働者性を見直すのであれば、施策の整合性が問われることになるのではないか。

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