全国的なコメ不足が問題となる中、生活困窮者を支えるフードバンクや子ども食堂が苦境に立っている。コメの寄付が激減し、自前での購入や代替品への切り替えを迫られているためだ。この窮状に対応しようと、農林水産省は年4回だった政府備蓄米の無償交付を通年化するなど、団体への支援拡大に乗り出すが、識者は課題も指摘する。(西田直晃)

教会内の倉庫に備蓄されているコメ。棚などには空いているスペースが目立つ=28日、東京都目黒区のカトリック碑文谷教会で

◆子育て世帯への無料配布を月1回に制限

 「品薄と高騰でコメが足りていない。寄付に頼れない状態がこのまま続けば、自前で購入しないといけなくなってしまう」  NPO法人フードバンク目黒(東京都目黒区)の平瀬栄治理事長(70)は不安を語った。今春ごろから寄付は減り始め、教会の倉庫に備蓄しているコメは現在、通常の4割にとどまる。子ども食堂や難民支援団体に食料を提供しており、月2回の無料配布会では、約400キロのコメを区内の困窮者に配っているが、現在のストックは1回分を下回るという。  「最近は、一部の子育て世帯について、無料配布を月1回に制限せざるを得なかった」と森直子副理事長(58)。主食のコメの不足は痛手だといい、「麺類などに切り替えるかもしれない」と話す。

教会内の倉庫に備蓄されているコメ。棚や台車には空いているスペースが目立つ

◆麺類やパンに替える?

 子ども食堂も似たような状況だ。江戸川区内の約50団体でつくる「えどがわっ子食堂ネットワーク」の担当者は「今夏は企業からの寄付が減った。区の補助金や政府備蓄米の交付制度を活用し、会員団体には自力で何とかしてもらうことになる」と説明。こちらも「麺類やパンに替えるなどの対策が必要になる」という。  コメの品薄の背景には、昨夏の猛暑による品質低下やインバウンド(訪日客)が押し上げた外食需要などがあるとされる。坂本哲志農水相は27日の記者会見で、8月は「コメの在庫が最も少なくなる端境期」と前置きした上で、「南海トラフ地震臨時情報、その後の地震や台風による買い込み需要の発生」が拍車を掛けた、との認識を示した。

◆政府備蓄米を無償交付できるが

 不測の事態に対処するため、政府は備蓄米制度を設けている。現在の備蓄量は「10年に1度の不作にも対応できる」という約100万トン。市場への供給とは別に、この備蓄米を食育などの条件を満たした子ども食堂やフードバンクに無償交付する制度が、コロナ禍が深刻化した2020年5月から導入されている。  農水省穀物課によると、27日の首相の指示を受けて、これまでは年4回・全国10カ所に限って受け付けていた子ども食堂などからの無償交付の申し込みを、9月からは通年・全都道府県に拡充する方向で急きょ動いている。担当者は「各地の出先機関などを活用する。今週末には具体像を示せる」と話した。

◆専門家が指摘する課題

 とはいえ、専門家からはこの制度について「さらに改善すべき点が残っている」という指摘もある。子ども食堂に詳しい中京大の成元哲(ソンウォンチョル)教授(社会学)は「子ども食堂の運営の主力は70代以上のおばあちゃん。申請時の書類作成など、煩雑な手続きが重荷となっており、現場にニーズがあっても応えられていない状況だ。同じ団体でも無償交付を受けるたびに手続きが必要なのもネックになっている」として、より簡便な制度が望ましいと述べた。 

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