企業間取引での活用が始まったデジタル通貨「DCJPY」の関係者(28日、都内)

銀行預金を裏付けとして分散型台帳(ブロックチェーン)技術で発行するデジタル通貨が広がり始めた。GMOあおぞらネット銀行などが28日、デジタル通貨「DCJPY」を活用した企業間取引を開始したと発表した。預金と同様に取り扱える点や決済の即時性が特徴で、取引のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進力になる可能性がある。

GMOあおぞら銀が発行するDCJPYを用いた決済システムは、まずインターネットイニシアティブ(IIJ)が導入する。IIJ傘下のディーカレットDCPがシステム開発を主導した。IIJのデータセンターで使う電気が化石燃料由来でないことを証明する「非化石証書」の売買に伴う決済に活用する。

今回のデジタル通貨は、1円=1DCJPYとして利用できる。デジタル化された非化石証書を購入するIIJのデータセンターの利用企業は、GMOあおぞらネット銀に法人口座を開設した上で、DCJPYの口座をつくる。企業は口座内の預金のうち、指定した金額分をDCJPYに変換できる。

これまでは非化石証書はPDFファイルでの取引が中心で決済は銀行振り込みだった。今後は非化石証書をデジタル化し、ブロックチェーン上で取引できる財産的価値(トークン)にする。デジタル通貨の口座と非化石証書の取引のシステムを接続し、ウェブ上の操作でトークンと資金の移転が同時に完了する仕組みを構築した。

データセンターの利用企業のうち、1〜2割程度の企業がデジタル通貨での取引に関心を示しているという。従来は、請求書を発行して代金の支払いを確認してから翌月に非化石証書を付与するプロセスが必要だったため、より円滑な取引が可能となる。

預金を裏付けとするブロックチェーン技術を活用したデジタル通貨は、国内では北国フィナンシャルホールディングス傘下の北国銀行が4月に石川県全域で発行を始めた「トチカ」もある。

北国銀の預金口座を持つ人が、加盟店でのキャッシュレス決済にトチカを利用できる。加盟店手数料は国際的な最低水準の0.5%とし、事業者の導入のハードルを下げてキャッシュレス化の推進を図っている。

ディーカレットDCPが100社から回答を得た5月の調査では、デジタル通貨を今後3年程度で活用したいと回答した企業の割合は26%で、検討中が約7割だった。デジタル通貨を活用したい領域は、「金融・不動産」が37社と最も多かった。

例えばブロックチェーン技術を活用して発行管理されるデジタル証券は、不動産を裏付け資産として発行されるケースが近年増加している。ブロックチェーン上のデジタル通貨とは親和性が高く、デジタル通貨で取引できれば利便性が高まる可能性がある。

ディーカレットDCPの村林聡会長兼社長は28日の記者会見で「デジタル証券など、新たな経済圏の創出、既存ビジネスのDXに向けて取り組んでいる」と話した。

海外では、米銀大手のJPモルガン・チェースがデジタル通貨「JPMコイン」を独自で発行している。JPMコインでの取引は1日あたり10億ドルに上るとされる。JPモルガンは世界各地に拠点があり、グローバル企業の顧客も多い。こうした企業のグループ会社間での決済などに使われるケースがあるようだ。

今回のディーカレットDCPの仕組みを使ってデジタル通貨の発行を検討している銀行も複数あるという。ただ、重厚長大なシステムを抱える伝統的金融機関にとっては、システム対応のハードルが高いとの見方もある。デジタル通貨の普及には、こうした課題を解決する道筋を示せるかも問われている。

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