電気自動車(EV)の電池向けに北米での投資や工場新設が相次いでいる。旭化成は2000億円規模を投じて主要部材を作る工場をカナダに新設する。北米でEVの生産を強化するホンダなどに供給する見通し。資金面では日本政策投資銀行が約280億円を支援する方針も固めた。北米でのEV供給網構築を促す「インフレ抑制法(IRA)」の後押しを受け、今後も投資が続きそうだ。
旭化成は24日、EV用の車載電池の主要部材である「セパレーター(絶縁材)」を製造する工場をカナダに新設すると発表した。旭化成はカナダ工場の建設・運営を見据えて2023年12月に会社を設立しており、この会社が約1100億円増資する。旭化成は北米事業の統括会社を通じて出資する。
さらにリスク管理の観点から自己資金だけでなく外部からの資金も活用する。日本政策投資銀行は約280億円を出資する方針を固めた。24年10月に発足予定の旭化成のセパレーター事業子会社が発行する優先株を引き受ける。
長年培ってきたセパレーターの技術力や顧客の需要を踏まえた堅実な投資計画であると評価したようだ。カナダでEVの新工場を建設予定のホンダも出資を検討しているとみられ、外部資金も合わせた投資総額は2000億円規模になる見通しだ。
北米での投資強化の背景には米国自動車市場から中国を排除しようとする施策の存在が大きい。米バイデン政権は22年に、北米で電池部品を半分以上組み立てるEVに税優遇する措置を盛り込んだインフレ抑制法を成立させた。電池向けの部材も北米域内での調達を増やす必要が高まっている。
EVの航続距離に影響するリチウムイオン電池は、主要4部材からなる。イオンを取り込む正極材と負極材、両者を隔てるセパレーター、充放電を促す電解液で、日本の素材メーカーの積極投資が相次いでいる。
三菱ケミカルグループは電解液の生産能力を増やす。米テネシー州の工場で24年末に生産能力を現在の2倍以上となる3万6000トンに増やして需要増に対応する。また電解液の主原料はこれまで中国に頼ってきたが、現地調達できるよう、原料の工場を稼働予定の米コウラ社との協業も検討している。
UBEは電池向け材料の製造拠点で初めて米国に進出する。電解液の主成分となる「ジメチルカーボネート(DMC)」や「エチルメチルカーボネート(EMC)」を生産する新工場をルイジアナ州に建設し、5億ドルの設備投資を行う。26年11月に稼働させる予定だ。同材料も中国への依存度が高く、現地調達に切り替えたい米国メーカーや日系メーカーの需要を見込む。
国際エネルギー機関(IEA)は23日、35年にEVが世界の新車販売の5割超を占めるとの予測を発表した。中国メーカーを中心に低価格車の市場が拡大すると見る。 ただ、米政府が自動車の排出ガス規制を緩和し、EVの比率を32年に乗用車全体の67%とする従来の目標を最高で56%、最低で35%に下方修正するなど、EVの普及のスピードは想定よりも鈍化する可能性がある。
素材メーカーが利益を出すには高い稼働率を維持することが重要になる。EV市場の拡大ペースと顧客の生産体制を見極めながら段階的に生産能力を引き上げるといった緻密な投資戦略が求められそうだ。
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