酷暑で商店街は…

東京・世田谷区の三軒茶屋にある商店街を訪れた。
シンボルとなっている商業施設やオフィスが入るビルの周りに数百件のカフェや居酒屋などの店が並び、買い物や飲み歩きを楽しむ人に人気の街だ。

その商店街にことしの夏は変化が起きているという。

創業55年の洋菓子店の店主に話を聞くと、夏の定番商品のアイスの中でも売れ行きが分かれているという。

このうちソフトクリームは「全然売れない」
売れ頃は、暑すぎない25度前後の気候と言われる。
暑くなればなるほど、食べたあとにベタベタした食感が残るからだという。
その一方で、さっぱりとしたかき氷など氷系の商品の売れ行きが上がっているという。

花の販売店もことしは暑さの影響が大きかったと話す。
夏の暑さで花が枯れるスピードが速まり、1人あたりの購入額が下がっているそうだ。
さらに、かき入れ時のお盆の時期に仏花の販売が大きく落ち込んだという。

「売り上げは半減まではいかないが大きく落ち込んでいる。命に関わる暑さでお年寄りが日中の墓参りを控えたのではないか」店の従業員はそう話していた。

また、お米の販売店の店主も「昼前後に買い物に来る人はほとんどいない」と話す。
暑さでお客の来店が控えられているという。
さらに、去年の猛暑で米の価格が値上がりしていることも売り上げに影響していると話していた。

熱中症予防の協力店

暑すぎる夏で来客が減ってしまう事態を少しでも避けようと、商店街では新たな取り組みも始めていた。

店内の一角の設けられたのは休憩スペースだ。
水分補給のためのウォーターサーバーや塩分チャージのアメが置かれている。
世田谷区が進める事業の一環で、この米の販売店をはじめ、世田谷区内各地の公共施設や商店街にある飲食店や薬局などに設けられているという。

その一方で、酷暑で売れ行きを伸ばす商品もあった。
コンビニエンスストアではアイスコーヒー用の氷入りカップやスムージーなどの冷たい飲料が飛ぶように売れたそうで、売り切れと書かれた紙が張ってあった。
居酒屋でもビールやハイボールの売り上げは好調だという。

当然、酷暑がすべて消費へのマイナス影響というわけでないが、商店街でこれほど悪影響の声を聞くと、やはり経済への影響が気になるところだ。

国の調査でも酷暑影響の声

酷暑による消費の異変は国の調査でも明らかになっている。
内閣府の「景気ウォッチャー調査」では、景気に敏感な飲食店やサービス業で働く人からのさまざまな声が記載されている。
今月公表された調査結果では、景気の現状についての1198あるコメントのうち、「暑」「温」を含むものがおよそ2割を占めた。

暑さでエアコンや飲料などの販売が伸びたというプラスの意見も多いが、半数余りは商店街やテーマパークなどからの「暑くてお客が来ない」というマイナスの影響を訴える声だった。

酷暑で売れ行きが落ちた意外なもの

ことしの酷暑で実際、どんな変化が起きているのか。
天気と商品の売れ行きの関係を調査する「ウェザーマーチャンダイジング」と呼ばれる分野の専門家・常盤勝美さんに話を聞いた。
常盤さんは、スーパーやドラッグストアなどの商品の売れ行き動向を表すPOSデータを分析している。

▽スポーツドリンク
消費傾向が変わった例の1つが「スポーツドリンク」。
去年までは暑さで大きく売れ行きが伸びる商品の1つだったが、ことしの7月は去年と比べてわずかに減少しているそうだ。
理由としては「天候不順や猛暑で体育の授業や部活動が中止になっているケースが増えていて、それが間接的に売り上げに影響を与えている可能性がある」と指摘する。

▽UVケア製品 蚊取り線香 カビ取り剤
日中の外出を避ける人が増えているため、UVケアの製品も去年より売れ行きは弱めだという。
このほか、去年のデータでは、暑すぎて蚊の活動が落ち着いたのではないかという見方から「蚊取り線香」の6月から9月の売り上げが前の年と比べて7%減少、「カビ取り・カビ防止剤」は13%減少している。

True Data・常盤勝美 流通気象コンサルタント

True Data・常盤勝美 流通気象コンサルタント
「これまでは『夏は暑ければ暑いほど消費が伸びる』というのが業界の常識だったが、その傾向は一部の商品で変化しつつある。メーカーも対策に乗り出していて、例えば夏に売り上げが落ちる乳成分が多いアイスは水分の割合を増やして食感に清涼感を出すなどして売り上げを確保する工夫をしている」

日本経済にはプラス?

エコノミストは頭を悩ます酷暑による新たな消費の変化。
結局、日本経済にとってはプラスなのか、マイナスなのか。
経済を分析するエコノミストの間でも意見が分かれている。

つまり、夏物商品の売れ行きが増えることのプラス面と、暑さに起因する人流の減少や天候不順という消費にマイナスとなる面をどう見るかということになる。

複数のエコノミストに話を聞いたところ、暑さの影響を定量的に分析するのは難しいという意見が多かった。

GDP=国内総生産の個人消費のデータを見ると、ことしは4月から6月までの個人消費は5期ぶりにプラスに転じて持ち直しの傾向が見られている。
ことし7月から9月までのデータで厳しい暑さの影響がどれほど出るのか注目される。

経済分析を担当する内閣府の幹部は、「異常な暑さ、集中豪雨など近年の夏は官庁エコノミストしての長年の経験や常識が通用しなくなっている」と話していた。

従来の常識が覆る予感をさせることし夏の消費動向。
経済の行方を大きく左右する個人消費をどう見極めるのか、経済分析はますます難しくなっている。

注目予定

来週は、29日のアメリカの半導体大手・エヌビディアの決算が発表される。
日米の株価上昇をけん引してきた好業績が続くのかが焦点だ。

また、30日のPCEデフレーターは、FRBが重視する個人消費に関する指標で、今後の金融政策の動向を見る上でその結果に関心が集まっている。

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