大塚裕司 大塚商会社長。1954年東京都生まれ。76年に立教大学経済学部を卒業後、横浜銀行、リコーを経て81年、大塚商会に入社。90年に同社を離れた後、92年に大塚商会に復帰。専務、副社長などを経て、2001年に同社の2代目社長に就任。以降、約22年間、トップに立ち続けている(写真=栗原克己)

企業にとってあらかじめ立てた予算に対して、100パーセントの達成と99パーセントの未達成ではまったく違う、と考えてきました。

私からすると、100パーセントを超えていなければ、例えばそれが99.9999パーセントだったとしても100パーセントに達していないことには変わりがありません。このため、私はあくまでも「予算を超えてない」と捉えてきました。数字の取り扱いにおいて、妥協することは一切ありません。経営には、「四捨五入」といった考え方は存在しないのです。

この考えを徹底するには、企業は未達のときにも、例えば予算比99.9パーセントといった数字がきちんと出ることが大切です。うまくいったときもそうでないときも、経営者はまずはしっかり、そして正確に把握する必要があります。私は当社をそんな会社にしたいとずっと思ってきましたし、今はそれができています。

昔は何でもありだったが

振り返れば、遡ること数十年前のバブル期などには「何でもあり」というところがどこかあったと思います。その頃ならば、実際の数字が99.9パーセントだったとしても「102、103パーセントにしておいて、何とか帳尻を合わせよう」となっていたかもしれません。

実際、先代の父の時代にはこのあたりはかなり「融通」を利かせていた面があったと思います。予算未達で終わったある月の場合は月末の締め日を終えた後、月初めの2日になってから後付けで前月の予算を下げて、結果として目標が達成になるということがありました。では未達の分はどうなったかといえば、「未達自体はあるのだから、その分を次の月に乗せ、そこで頑張る」としていました。また振り返れば、予算比95パーセントが続いたために予算自体を引き下げた上で、「下げた予算に対して100パーセントを目指す」といったこともあったと思います。

父としては、予算を下げてでも「100パーセントを達成してもらう」ことによって、何とか社員のモチベーションを高めようとしたのかもしれません。しかし、私の経験からすると、予算が未達のときに目標を下げたからといって、「それならば頑張ろう」といった形で社員のモチベーションが上がることはありません。むしろ、例えばいったん予算を当初の100から95など達成できそうな水準に下げると、今度は下げた予算に対して95パーセントという結果になりやすいのです。こうしたことを私はずっと見てきました。このため「100パーセントを達成したい」からといって、私が予算自体を下げたりすることは絶対にありません。

もちろん、市場環境の変化などによって予算を見直すことはあるでしょう。しかし、予算を達成できないからといって目標を下げたりしていては本末転倒であり、何のための目標なのかが分からなくなります。今ではもちろん、あり得ないことです。

こうしたあいまいさをなくすために、私はシステムづくりに力を入れてきました。今はすべてシステム化していますから、あいまいさは入り込む余地がありません。誰かが帳尻合わせをしようとしても、仕組み上、できないようになっています。

「見える化」にこだわる

東京での自社イベントに臨む大塚氏(写真=栗原克己)

目標に達しているかどうかを「見える化」することに対しても、私はこだわっています。

社員に達成状況を示すときには100パーセントちょうどならばイコール(=)、達していないときは、不等号(>)によって予算に達しなかったことを分かりやすく示します。99.99パーセントなどの場合があっても、そのことがきちんと分かるように示しています。もしエクセルの表が見にくければ、スペースをそこだけ拡大してでも分かりやすく示すようにしています。100パーセントでないことは、どうあがいてもやはり100パーセントではないのですから私が「ほぼイコール」などと捉えることはありません。

このときに「ほんのわずかではないか」と思ってはならないのです。例えば、もしこれが入学試験だったらどうでしょうか。1点足りなければ試験をパスできないことはよくあることであり、それだけに皆必死で試験に臨みます。私が100パーセントにこだわるのも同じであり、100パーセントに乗ったかどうかは私にとって「天国と地獄」くらい大きく違うのです。そのことを社員にはしっかり知ってほしいと思っています。

それでも予算が未達成の場合、例えば予算比99パーセントなどのときには、状況によっては、私は担当者の気持ちに寄り添って「頑張ったが残念だった」「惜しかった」とねぎらうこともあります。しかし、それが予算比98パーセントとなったら、そうはいきません。相当の覚悟をして臨まなければなりません。

私からすると、予算比98パーセントとなると「惜しい」という状況からは遠く離れています。2ポイントも不足している以上、未達であることが明確ですから、猛省すべき状況だと考えるべきです。

経営者の中にも、この考えを「厳しい」と捉えるという人もいるようですが、私からしたら当たり前のことであり、むしろそれこそが経営者にとって大切な役割だと思っています。

(日経ビジネス 中沢康彦)

[日経ビジネス電子版 2024年4月26日の記事を再構成]

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