記者会見で頭を下げる三菱UFJフィナンシャル・グループの亀澤宏規社長㊨ら(19日、東京都千代田区)

銀行・証券間の無断情報共有で社長ら21人の処分を19日に公表した三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)は法令順守体制の立て直しを急ぐ。人工知能(AI)を使った通話内容の検査や役員への罰則強化、業績評価の見直しなどで営業のあり方を見直す考えだ。これまで推進してきたグループ一体の経営への影響は避けられない。

「グループ最高経営責任者(CEO)として責任を痛感している」。三菱UFJFGの亀澤宏規社長は19日に改善計画の提出にあわせ都内で開いた記者会見でこう強調した。月額報酬の削減は業務改善命令の対象外だった持ち株会社も含め、退職者には給与返納を求めた。「改善計画を実行していくことで責任を果たしたい」とも述べた。

業務改善計画で掲げた再発防止策には研修やルール、システムの整備といった法令順守の意識を徹底させるための施策が並んだ。社内の相談窓口の設置や銀行、証券合同の専任チームをつくることによる管理の強化を実施。役員層には研修や宣誓の受け入れ、トップによる直接指導も含めて実施してけん制機能を高める。

業績評価を巡っては企業のニーズの情報共有を銀行と証券の間で業績評価のうえで収益を二重で計上する仕組みの条件から外し、組織評価でも法令順守の比重を高める。グループの総合採算評価については顧客本位を目的としたものという趣旨を再徹底するという。亀澤氏は「銀・証連携の戦略自体は変わらない」と発言した。

三菱UFJは銀行の営業担当者がグループの信託銀行や証券会社のサービスを含めて提案する体制の整備を掲げており、他のメガバンクを含め銀行界の潮流だった。情報共有が後退すればグループの営業力の低下は避けられない。三菱UFJ幹部は「銀行の担当者がグループ営業の核となっているのが再発防止で難しい点だ」と話す。

本業への影響は債券の引受業務ですでに出ている。金融庁処分の前提となる証券取引等監視委員会による勧告が明らかになった6月以降、三菱モルガンを主幹事から外す動きが相次いだ。日本政策投資銀行や住宅金融支援機構などに加え、神奈川県やイオンなどが一度指名した主幹事から三菱モルガンを外した。

一般的に債券は過去の実績などで主幹事を決める場合が多く、外れると引受業務の立て直しに時間がかかる可能性がある。英ロンドン証券取引所を運営するLSEGによると、三菱モルガンの24年1〜6月の債券引受額は前年から1割以上減少した。亀澤氏は業績に数十億円程度の影響が出る可能性があると見積もる。

監視委の調査では、情報管理態勢に不備がある状況で得た情報で行員が配偶者名義の口座で数千回にわたり有価証券の売買をしていたケースも発覚した。業務で知り得た取引先企業の「重要事実」を公表前に親族らに伝えていた疑いも出ている。組織的な不正とは異なるが、現場への法令順守意識の浸透は信頼回復に向けた前提となる。

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