NTTソノリティの新製品「nwm(ヌーム) ONE」発表会で記念写真に納まる俳優の磯村勇斗さん(中央)ら(18日、東京都港区)

NTT子会社で音響関連事業を手掛けるNTTソノリティ(東京・新宿)は18日、耳をふさがずに周囲の音も聞こえるヘッドホンを発売したと発表した。固定電話から培ってきた特許技術などを盛り込み、消費者に新たな音の楽しみ方を提供する。NTTグループの課題である研究成果の事業化に弾みをつける狙いもある。

「技術力を武器にグローバルブランドに育てていきたい」。NTTソノリティが東京都内で開いた発表会に登壇した坂井博社長はヘッドホンの完成度に手応えを示した。日本に続いて米国で近く販売を始める。オープン価格で、一部ECサイトでは3万9600円という。

イヤーパッド部分の面積を減らし、耳の周辺を覆わない近未来的なデザインだ。商品開発のコンセプトは「没入ではなく共存」(坂井社長)といい、あらゆる場所で周囲の音とヘッドホンの音が合わさるような体験ができる。車のクラクションなどが聞こえるため、事故防止などの効果も見込む。

土台には「PSZ(パーソナライズドサウンドゾーン)」と呼ぶNTTの技術がある。音は波形を反転した波形(逆相)を当てると打ち消し合う性質を持つ。この原理を応用し、イヤーパッドで覆わなくても耳元に音をとじ込め、音漏れを抑える仕組みを構築した。

ヘッドホンはインカムとしても利用でき、新型コロナウイルス下で広がったオンライン会議などでの需要も見込む。マイク部分に雑音を取り除いて話者の声だけを届ける特許技術を搭載している。声の特性に関する研究の蓄積も生かした。

耳をふさがないタイプのイヤホンやヘッドホンの需要は拡大している。中国の調査会社QYリサーチによると、世界市場は2030年に5785億円規模と23年に比べ1割近く増える。NTTはヘッドホンを新たな収益源として育てたい考えで、24年度内に中国にも投入するほか、欧州への展開も検討している。

今回のヘッドホンにかけるNTTグループの期待は大きい。技術開発が事業化に結びつかない「死の谷(デスバレー)」の克服が長年の課題だったためだ。屋台骨の通信事業に大きな成長を見込めないなか、新たな収益源の育成は急務になっている。

NTTは計約2000人の研究者を抱え、近年は年2500億円前後を研究開発費に充てている。だが「アウトプットが足りていない」(NTT幹部)との危機感が強かった。

難局を打開するための手は打ち始めている。まずは研究成果を基にした新会社の立ち上げだ。21〜23年の3年間に4社設立した。18〜20年はゼロだったことを考えると、力の入れ方は鮮明だ。

21年9月設立のNTTソノリティもその1社で、4社のなかで最も進んだ先兵との位置づけになる。IoTや人工知能(AI)を使った陸上養殖を手掛けるNTTグリーン&フードなども立ち上げている。

23年にはマーケティング機能を含めた研究開発(R&D)部署も社内に新設した。商品やサービスを生み出すことを意識した研究開発の体制を整えた。島田明社長も自ら研究所を回って「とがった研究」を発掘している。

もっとも、研究の殻を打ち破るのは容易ではない。サービスの原点となる研究や技術を磨きつつ、「死の谷」を越える橋をいかにうまく架けるかが焦点となる。

(宮嶋梓帆、田中瑠莉佳、石坪真衣)

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