永谷園ホールディングス(HD)は17日、三菱商事系の投資ファンド、丸の内キャピタル(東京・千代田)と実施したMBO(経営陣が参加する買収)が成立したと発表した。主力のふりかけや味噌汁の販売が国内消費者のコメ離れで低迷する中、三菱商事と海外市場の開拓を急ぐ。現地に適した味を開発し、外国人の胃袋をつかむ。

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1株あたり3100円で実施したTOB(株式公開買い付け)が成立した。6月4日から7月16日までの買い付け期間に、買い付け予定株式の約83%の応募があった。丸の内キャピタル系は9月下旬に、三菱商事が保有する株式を除いた全ての株式を取得し、永谷園HDは早ければ秋ごろにも上場廃止となる。

非公開化後も永谷栄一郎会長、永谷泰次郎社長、永谷祐一郎副社長ら創業家は経営幹部として会社をかじ取りし、3割超の株式を握る。三菱商事が引き続き1割、その全額出資子会社である丸の内キャピタルが5割超の株式を保有する形となる。

三菱商事は国内では三菱食品やローソンをグループに持つ。海外でも食品関連や小売事業を展開し、各国市場の傾向や外国人の味の好み、現地企業の動向などにも精通する。丸の内キャピタルも食品スーパーの成城石井の経営を立て直した実績がある。

永谷園は上場廃止で経営判断を迅速にすることに加え、三菱商事グループとの連携をてこに海外事業をてこ入れする。泰次郎社長は17日、非上場化によって「中期的かつ持続的な『グローバル』への挑戦が可能になる」とコメントした。丸の内キャピタルの市原康隆副社長も日本経済新聞の取材に「海外事業は永谷園にとって重要だ。三菱商事グループのノウハウを活用することでもう1歩、2歩伸ばしていける」と話した。

永谷園HDの海外売上高は24年3月期で420億円と、連結売上高の37%を占める。これまでの海外戦略は、果物を乾燥させたフリーズドライ製品や麺やギョーザの皮といった小麦粉製品を販売してきた。北米や欧州で現地企業を買収し、製造から販売まで手がけていた。

海外進出を始めた2010年代には、東南アジアで茶漬けや味噌汁といった永谷園の商品の試験販売をしたこともあったが受け入れられず、現在は現地の邦人向け事業にとどまっている。一般家庭にのり入りの茶漬けを提供したところ、のりや魚のだしの味が受け入れられず、「生臭い」などとして、のりだけを除いて消費されたこともあったという。

今後は外国人の味の好みに沿った永谷園らしい商品を三菱商事系と開発・販売する考えだ。詳細は今後詰めるが、茶漬けや味噌汁といった和食関連の製品になるとみられる。

永谷園HDの国内事業は停滞している。19年3月期からの5年間で国内食料品事業の売上高は2割減った。ただ、国内の市場は大幅な成長は見込めない。非上場化で株主還元などを気にせずに中長期的な成長を目指す余裕ができ、海外事業に比較的大きな経営リソースを振り向けられる。

炊きたての白米に味噌汁、焼きジャケ。定番の和食には根強い人気がある。和食は13年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録され、世界的に関心が高まっている。今後も関連製品の市場拡大が期待される。三菱商事を援軍につけた永谷園HDは外国人が舌鼓をうつような商品開発を目指す。その成否は和食文化の今後をも左右する。

(西頭宣明、渡辺伸)

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