年金財政は前回の検証時から幾分改善する傾向となり、厚生労働省は焦点だった国民年金の納付期間を延長する改革案を見送った。しかし改善は、女性や高齢者らの労働参加が増えるとの一時的な要因との見方が強い。専門家は国に対し、先行きを過度に楽観視せず、丁寧に説明しながら必要な改革を続けるべきだと指摘する。(大島宏一郎、畑間香織)

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公的年金の給付水準、33年後には2割減 5年に1度の「財政検証」 国民年金の納付期間延長案は見送り


◆厚労省は在住外国人の増加も見込むが…

 「比較的高い給付水準を将来にわたって確保できる見通しになった」。3日の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)年金部会で、橋本泰宏・年金局長は財政検証の結果を受け、こう述べた。前回2019年の検証から5年間で「高齢者や女性を中心に労働参加が予想を上回って進んだ」と指摘。「所得代替率に大きな改善がみられる」と語った。

公的年金の財政検証結果が報告された社会保障審議会の年金部会=3日、東京都千代田区の全国都市会館で

 しかし、最近の経済情勢が続く中間的なシナリオであっても、年金財政の収支バランスを維持するための給付水準の低下は30年以上続く。特に国民年金の底上げは急務だ。  厚労省は「目指すべき将来の姿」として、もうひとつの中間的なシナリオ「成長型経済移行・継続ケース」を示した。この場合、物価や賃金が伸び、女性や高齢者などの労働参加が大きく進むと仮定。保険料を納める働き手の増加などで夫婦の年金額は2024年度の月22万6000円から2037年度の月24万円に増え、所得代替率の低下も61.2%から57.6%にとどまると試算した。  だが、第一生命経済研究所の星野卓也氏は、女性や高齢者の労働参加は将来的に頭打ちになるとし「働き手は減る局面が来る。年金の減り方は大きくなる可能性が高い」と指摘。厚労省は日本に住む外国人の増加も見込むが、星野氏は「新興国の賃金が上がる中、外国人が順調に増えるかどうか不透明だ」と見通す。  関東学院大の島澤諭教授も、前提条件に疑問符を付ける。前提となった実質賃金上昇率は1.5%だが、2001~22年度の平均値がマイナス0.3%だったなどとして「楽観的で甘めの想定」とした。

◆最悪のケースを想定して、今から手を

 厚労省は今後、短時間労働者の厚生年金への加入拡大など制度改正の議論を本格化させるが、財政悪化が懸念される国民年金は、保険料の納付期間を延長する案を見送った。延長しなくても一定の給付水準は確保できるとの判断だが、少子化で年金財政の支え手の増加が見込めない中、必要だとの見方は根強い。  今回の財政検証で示された最悪のシナリオでは、国民年金の積立金が2059年度に枯渇し、所得代替率は3割台に落ち込む。年金部会委員の深尾京司経済産業研究所理事長はこの日、実質賃金の低迷が続いている点に触れ「悲観的な場合にはこういうことはあり得る。真剣に考えておく必要がある」との見方を示した。  日本総研の西沢和彦理事も「積立金が枯渇するワースト(最悪)ケースに備えて、今から手を打つべきではないか」と強調。情報開示のあり方についても「最も起こり得るシナリオが何か、国民に分かるように責任を持って示すべきだ」と指摘する。 

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