音を体感できる富士通のヘアピン型機器「Ontenna(オンテナ)」の活用が広がってきた。音を256段階の振動と光の強さに変換することで、強弱やリズムを感じ取ることができる。国内の8割以上のろう学校が導入し、利用シーンは音楽イベントなどにも広がる。欧州などでの海外展開も視野に入れる。
5月初旬、東京・丸の内周辺で開かれた「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024」。誰でも無料でクラシックコンサートを楽しめるイベントには4日間で2万8000人以上が足を運んだ。富士通は全59公演のうち9公演でオンテナを貸し出し、58人が利用した。
利用者からは「障害の有無に関わらず同じイベントを楽しむことができた」など一体感を共有できたことへの驚きの声があがった。
「音のアンテナ」という意味を込めたオンテナは、髪の毛や耳たぶ、袖口などに取り付けて使う。マイク、バイブレーター、発光ダイオード(LED)ライトを内蔵し、音をマイクが感知するとリアルタイムで振動しライトが光る。256段階の振動と光によってからだで音を感じ取ることができる。価格は2万7280円で提供する。
国内の8割以上のろう学校が導入し、音楽や体育の授業で使用している。コントローラーを使えば複数のオンテナと通信できる。半径約50メートルの電波が届く範囲であれば数の制限なくオンテナを制御でき、リズムを合わせて複数人で太鼓など楽器の演奏も可能となる。
オンテナを開発した富士通の本多達也氏は、学生の頃からろう者が音をどう感じるのかに関心を持ち研究を続けた。「音を起点に一人ひとりが違いを受け入れ、自分らしく生きられる世界を作りたい」と話す。手軽に利用してもらえるようアクセサリーとして身に付けられる見た目にもこだわった。
現在オンテナは1500台以上を販売している。今後は福祉政策の進む欧州での海外展開も視野に入れる。国内ではスポーツや映画などオンテナの活用領域を広げていく予定だ。新しい鑑賞体験をもたらすツールとしてさらに進化を目指す。(田中瑠莉佳)
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