ライドシェアドライバーとして稼働する中本隆太郎(49)。普段は整体師やゴルフ指導者として働く

5月下旬、ライドシェアドライバーに採用された中本隆太郎(49)は健康診断を受けていた。雇用先のタクシー会社との面接後、接客研修や自家用車の点検など多くの手続きに忙殺された。だが、面接から2週間が経過してもまだ運転はできない。

中本は「事業の立ち上がりはこういうもの。手間はかかるけど『安全だ』と思って乗ってもらいたい」と苦笑いする。

4月に産声を上げた日本版ライドシェアはタクシー会社がドライバーを雇う形で運用する。採用後も各種研修や稼働前点呼などコストと時間がかかる。安全に関する責任はタクシー会社が負うため、ドライバー選びは慎重にならざるを得ない。

配車アプリ大手の米ウーバーテクノロジーズによると、海外では9割以上のライドシェアドライバーが副業として働く。中本も整体師やゴルフ指導者の顔を持つ。ライドシェアは「3足目のわらじ」だ。1週間に20時間ほど稼働して「家計の4割ほどを賄いたい」と期待する。

果たしてライドシェアはもうかるのか。東京都江東区に暮らす男性(32)はタクシー会社の遠隔点呼とアルコールチェックを終え、配車アプリの稼働ボタンを押して利用者の反応を待った。待機に入って1分、配車を知らせる通知が鳴った。外国人が宿泊するホテルへの迎車依頼だった。稼働してしばらくは依頼の多さに驚いたという。

男性は平日の午前8時ごろから3時間ほど稼働する。この日は5組を乗せ、売上金額は1万4000円ほどだった。ドライバーの取り分は売り上げの約7割で、残りはタクシー会社の収益になる。ガソリン代はドライバー持ち。男性は「実質的な手取り額を考えると割に合うかは微妙だ。もうしばらく続けてもうけを見極めたい」と話す。

海外で先行するライドシェアの自由な働き方のイメージから、柔軟な勤務体系を望む応募者は多いという。だが日本版はタクシー会社とドライバーが雇用契約を結ぶ。ロイヤルリムジン(東京・江東)の採用担当者は「(働き方の自由度が高い)業務委託契約でないなら辞退するという人もいる」と明かす。

運輸サービスに詳しいSOMPOインスティチュート・プラスの新添麻衣主任研究員は日本版ライドシェアについて「タクシー業界に配慮した制度でドライバー確保が困難な設計だ」と指摘する。制度を走らせるドライバーの雇用には、まだ課題が多いようだ。(敬称略)

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