「たんぱく質クライシス(危機)」という言葉をご存じでしょうか。世界を見渡すと人口増加や気候変動などにより、たんぱく源となる牛や豚、鶏、乳製品などの生産量が追いつかなくなることです。2030年にその危機が訪れるといわれています。一方、日本に目を転じると、若年層を中心にたんぱく質の摂取量が目標値に達していない現実があります。たんぱく質は、成長するための栄養素であり、日々の健康維持に欠かせないにもかかわらず、不足しているのです。たんぱく質の摂取は社会課題なのです。読者の皆さんには、自分のこととして生命(いのち)の根源であるたんぱく質の大切さについて考えてもらいたいのです。

日本ハムはソーセージの「シャウエッセン」をはじめ、多くの商品を通して消費者にたんぱく質を提供しています。日本で摂取するたんぱく質の約6%を賄う量だそうです。創業者の大社義規(おおこそ・よしのり)が1942年に徳島県で食肉加工業を始め、戦災で会社は焼失したものの48年に事業を再開しました。戦後の貧しい時代、進駐軍の外国人に比べて日本人の体軀(たいく)の貧弱さに衝撃を受け、牛や豚などの動物性たんぱく質を国民に提供しようという強い志のもとの再起でした。

日本ハム 井川伸久社長

どうすればたんぱく質をたくさん食べてもらえるのか。それにはおいしいハムやソーセージなどを製造するための良質な肉が必要です。日本ハムは畜産家を支援し、畜産から製造・加工、販売まで一貫して行う体制を整えています。動物を飼育する畜産の仕事は本当に大変です。

人工知能(AI)などを活用して豚の繁殖に役立てているほか、今後はその範囲を育成、飼育、出荷まで広げたサポートを目指しています。また、たんぱく質不足に備えて、代替肉や細胞性食品(培養肉)などの新たなたんぱく質の開発にも取り組んでいます。

日本ハムは「たんぱく質の安定調達と供給」を最重要課題としており、30年のありたい姿として策定した「Vision2030」では「たんぱく質を、もっと自由に。」を掲げました。必要なたんぱく質を提供するために多彩な商品、事業を展開する「たんぱく質の価値を共に創る企業へ」とさらに変革していく覚悟です。

昨年開業したプロ野球・北海道日本ハムファイターズの拠点、北海道ボールパークFビレッジ(北海道北広島市)は、地域社会、企業、お客様との共創の象徴かつ情報発信基地と位置づけて、食とスポーツを掛け合わせたエンターテインメント性あふれる、新たな空間を創造しました。これも創業者、大社の思いが通底にあります。食とスポーツを通して皆さんの健康な身体(カラダ)づくりのお役に立ちたいです。良質なたんぱく質をとってほしいからです。

読者の皆さんにお願いです。「カラダに必要なたんぱく質をどう確保しますか」ということを考えていただき、素晴らしいアイデアを投稿してください。社会をより良くするためのアイデアをよろしくお願いいたします。

井川伸久・日本ハム社長の課題に対するアイデアを募集します。投稿はこちら(https://esf.nikkei.co.jp/future20240603/)から。

編集委員から

インタビューで井川社長が力を込めて語った言葉が「私たちは天の恵みをいただいている」でした。日本ハムの事業基盤の牛、豚、鶏はまさに天の恵みによって授けられ、私たちは生命を繫(つな)いでいます。

日本人の1日当たりのたんぱく質の摂取量は70グラム強で約30年前に比べると10グラムも減っています。国が定めた最低限の摂取量はクリアしていますが18〜29歳の普通の男性は86〜133グラム、女性は65〜100グラムが目標値です。十分とは言えませんね。

「たんぱく質をどう確保するか」という問いに皆さんは、どう考えるのでしょうか。例えば、肉の自給率の上昇のためにも後継者難に悩む畜産家へのサポートも必要です。原材料を加工してさらにおいしい商品にする技術・メニュー開発も大切な要素です。せっかく心血を注いでつくった商品を売るための戦略も見逃せません。そこにはマーケティングの力が頼りになるはずです。健康の維持と増進のため、いろいろな角度からトライしてみてください。(編集委員 田中陽)

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今回の課題は「カラダに必要なたんぱく質、どう確保する?」です。420字程度にまとめた皆さんからの投稿を募集します。締め切りは11日(火)正午です。優れたアイデアをトップが選んで、24日(月)付の未来面や日経電子版の未来面サイト(https://www.nikkei.com/business/future/)で紹介します。投稿は日経電子版で受け付けます。電子版トップページ→ビジネス→未来面とたどり、今回の課題を選んでご応募ください。

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