日本鉄道発祥の地、旧新橋停車場(港区)の一角に5月、オープンした伊藤園の「お茶の文化創造博物館」。初代館長に就任した笹目正巳さん(62)は全国屈指のお茶どころ、静岡県牧之原市の研究拠点で40年近く働いた経験を持つ。長年蓄えた知識と経験を自社にこだわらない展示に反映させ、茶の魅力をPRしている。(鈴木太郎)

茶の飲み方の歴史について語る笹目正巳さん

 伊藤園は緑茶を缶やペットボトルに入れて初めて販売し、茶の楽しみ方の選択肢を広げた。この歴史を踏まえ、博物館の展示は「茶の飲まれ方」の変遷に焦点を当てた。茶が日本に伝来したとされる平安時代を起点に、葉の煮出しから、抹茶や急須で入れる煎茶、ボトルによる液の持ち運びへと飲み方が変化していく流れを体感できる。

◆鉄道発祥の地に建つ 「汽車土瓶」が目玉

 新橋から始まった鉄道の開通を機に、液体の茶を持ち運ぶ容器として使われた明治時代の「汽車土瓶」が目玉の一つ。葉を薬用として煮出した時代から、抹茶や煎茶として茶が大衆化するまでの経緯も、多様な茶道具とともに伝えている。

展示された明治時代の「汽車土瓶」など=いずれも東京都港区で

 展示された道具の一部は、笹目さんが個人で収集したものだ。大学の研究室で茶に興味を持ち、缶入り緑茶が発売された1985年、伊藤園に入社した。茶どころ静岡でペットボトル商品の開発をする中で、生産者らに負けない知識と五感を身に付けようと、道具を買い集めた。いつしか収集品は自宅に収まりきらなくなり、職場に置いて来訪者に由来を解説するように。「それが今の館長の仕事の原点かも」と笑う。  「冷やして飲むには甘めの味がいい」「一度に大量に抽出するため茶葉の品質のぶれを極力なくす」―。急須で入れる茶とペットボトルの茶の違いを語り出すと止まらない。世に出した一つ一つの商品が思い出だ。

◆「茶の人気は衰え知らず」

 笹目さんによると、近年茶葉の消費量は減っているものの、茶飲料の消費量は増加傾向。茶葉がこれまで売れないとされてきた真夏や真冬にも茶が飲まれるようになり「茶の人気は全く衰えていない」と力を込める。  博物館には、自社製品の豆知識や持続可能な未来に向けた社の取り組みを紹介する「お~いお茶ミュージアム」や、茶製品販売コーナーを併設。茶が果たしてきた役割や茶飲料の現状についても知ることができる。

◆博物館「語り場にしたい」

お茶に関する道具などが展示された「お茶の文化創造博物館」

 「苦くて渋いのに飽きがこず、数多くの比喩やことわざに使われる、こんな飲み物は他にない」と笹目さん。「茶を楽しむ人がつながり、茶の未来について語り合える場にしていきたい」と語った。 

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