4月23日夜、石川県輪島市中心部。復興が進まず薄暗い街に、提灯(ちょうちん)の灯(あか)りがともっていた。4月下旬時点で市中心部で唯一再開している居酒屋「炭火焼き鳥 とり彩(いろ)」。「みんなで飲むことしか楽しみがないね」。地元の常連客らの笑顔が広がる。

 珠洲市出身の店主、町屋智さん(50)と妻の恵子さん(50)が2016年に開業した。同店は、能登半島地震で食器や酒瓶が散乱するなどしたが、建物に目立った被害はなかった。止まっていた水道が2月下旬に復旧、3月14日に営業再開した。

  • 写真ルポ 能登半島地震

 町屋さんは「他の店は大きな被害を受けたのに、うちだけ再開するのは心苦しかった」と振り返る。それでも、二次避難先の金沢市から戻って町を歩くと、夜は真っ暗で、「復興支援で来てくれた人が、食べる場所もないのは困るのではないか」と店を開ける決心をしたという。

 今は連日、常連客や復興支援の人たちが訪れ、1週間先まで予約で席が埋まっている。「開けてくれてありがとう」と、町屋さんに多くの客から声がかかる。肉や野菜は近くのスーパーや金沢市の店に買いに行っているが、酒は近所の酒屋が店舗が壊れてしまったのに、メーカーから取り寄せてくれている。

 町屋さんは「人とのつながりで、店をやれている。輪島の復興のためにとか大きなことは言えないが、少しずつ店が開いていけば、街が生き返っていくと思う」と話す。(筋野健太)

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