公益通報者保護制度の見直しを議論する消費者庁の有識者検討会が24日、報告書案をまとめた。通報を理由とする解雇や懲戒に新たに刑事罰を導入するほか、告発対象となった人らが通報者を特定しようとする行為も禁止する。企業や官公庁の不正を安心して告発できる環境をつくり、制度の実効性を高める。

消費者庁は今回の報告を踏まえ、近く公益通報者保護法改正案を国会提出する。

現在の公益通報者保護制度に対しては、通報者への不利益な取り扱いに対する罰則がなく、抑止効果に乏しいとの指摘があり、法改正を望む声が上がっていた。

報告書案では通報を理由とした解雇や懲戒に刑事罰を導入するとした。個人だけでなく法人も処罰対象とする。検討会では配置転換も対象に加えるよう求める声も出たが、人事異動が一定の頻度で行われる日本企業の人事慣行を踏まえ、対象外とした。

告発対象となった人らが通報者を特定しようとしたり、告発を恐れて同僚らに口止めするなど通報を妨害する行為も禁止する。

不利益な取り扱いを受けた通報者が事業者に対して裁判を起こした場合の負担軽減策も盛り込んだ。現行制度では通報者側が処分の違法性を立証する必要があるが、報告書案は事業者側が処分の妥当性について立証責任を負うとした。同じく対象は解雇や懲戒のみで、通報から1年以内の処分であることが条件だ。

違反者に対する国の指導権限も拡充する。現行制度では従業員数301人以上の事業所に内部通報に対応する窓口の設置などを義務付けているが、従わない事業者に消費者庁がとれる対応としては指導や助言、勧告、事業者名の公表にとどまる。

そこで事業者に対する命令権や立ち入り検査権を消費者庁に認め、それでも従わない場合には刑事罰も科せるなど強力な権限を与えるとした。

通報できる主体は現在、その事業者に勤める労働者や派遣労働者、取引先の役員に限られるが、新たにその事業者と取引するフリーランスも追加する。「フリーランスは取引先に経済的に依存する傾向にあり、実質は使用者と労働者の関係に類似する」とした。

2006年に導入された公益通報者保護制度を巡っては、内部通報者への解雇や懲戒など不利益な取り扱いに対する罰則がなく、抑止力が不十分との指摘が出ていた。

実際にダイハツ工業の認証不正問題や旧ビッグモーターの保険金不正請求問題など最近の企業不祥事でも従業員の通報を企業側が放置するなど公益通報が機能しなかった事案は後を絶たない。

官公庁でも兵庫県知事がパワハラ疑惑などを内部告発された問題で、内部告発者の元県庁幹部に対する懲戒処分の妥当性を県議会の調査特別委員会(百条委員会)などが調べている。

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