「学びの多様化学校」とは
「学びの多様化学校」は、もともとは「不登校特例校」として2004年に初めて設置され、2023年、名称が変更されました。
公立と私立の小学校や中学校、高校があります。
学校教育法施行規則に基づいて設置されていることから、一般の学校と同じく卒業資格を得ることができます。
対象となるのは、不登校の状態やその傾向にある子どもたちです。不登校の子どもたちが通いやすいよう各学校で工夫がなされています。
学校によって異なりますが、
▽年間の授業時間数は、通常の学校よりも1割から2割ほど少ないほか
▽登校時間も1時間程度遅く、子どもたちのペースで通うことができます。
また
▽授業時間は午前3時間、午後2時間など、1日のスケジュールにゆとりを持たせていたり
▽一人ひとりの学びの状況を把握するために学習支援計画を策定したりします。
このほか
▽学び直しの時間や
▽コミュニケーション能力を養成するための時間など
独自の教科を設定している学校もあります。
「学びの多様化学校」の現場は
この学びの多様化学校の1つを取材しました。
宮城県白石市が設置した学びの多様化学校「白石南小学校・白石南中学校」です。
公立の小中一貫校で、2023年に開校しました。
通っている児童と生徒は、あわせて32人。
朝起きることが難しいといった症状が現れる「起立性調節障害」の疑いがあったり、集団生活になじめず、不登校となっていたりした子どもたちです。
登校時間は午前9時20分。
公立のほかの学校より1時間遅く、子どもたちは市内の全域からスクールバスなどで登校します。
柔軟な独自のカリキュラムも特徴です。
1日の授業は午前3時間と午後2時間で負担を軽くしています。
年間の授業時間も標準的な授業時間よりも1割以上少なくなっています。
さらに、週に3時間程度、学び直しのための「白石タイム」と呼ばれる授業を設けています。
苦手な分野や不登校で学べなかったところを一人ひとりが先生と相談して学習します。
校舎内の中央には、子どもたちが自由に休める畳のスペース。
本棚には小説のほか、漫画も置かれています。
授業中も自由に利用できます。
授業を受け続けることが難しい子どもたちの大事な居場所にもなっています。
最大の特徴は、手厚い教職員の体制です。
子どもの数とほぼ同数の教職員29人が子どもたちの指導やサポートにあたっています。
市教育委員会によりますと、開校以降「学びの多様化学校」が設置されていない自治体に住む保護者から、転校を希望する相談が増えているということです。
中学2年の女子生徒
「人と会うのが苦手で家で過ごしていましたが、勉強もちゃんとできず、高校にいけるか怖かったです。学校に行っていなかった時期の勉強も教えてもらえてありがたいです」
仙台市の民間のフリースクールに通っていた中学1年の男子生徒
「休憩しながら勉強ができて、将来についての不安も少しなくなりました」
男子生徒の母親
「不登校になって面倒を見るために仕事を短くしなければならず、経済的に大変でした。公立の学校に通うことができ息子にとっても、経済的にもよかったです」
学校には、まだ特例校を設置していない自治体からの視察も相次いでいるといいます。
学校自体の視察に加えて、どのように設置費用や教職員を確保しているのか学ぶためです。
白石市の学校では、統廃合で廃校となった校舎を利用し、およそ3500万円の改修費用に抑えました。
また、企業版ふるさと納税を使って市内外の企業から寄付を募るなどして資金を確保。
元民生委員や教員経験のある人などを学校の支援員に雇うための人件費にも活用しているといいます。
我妻聡美校長
「これまでの『学校はこうあるべき』という考えは、子どもに圧迫感を感じさせていたと思う。教員が子どもたちにさせたいことと、子どもたちがしたいことをマッチングさせてやる気を伸ばすことが大切だ。進学など次のステップへの橋渡しの役割を果たしていきたい」
- 注目
国は全国300校の設置目指すが計画含めても2割・57校にとどまる
こうした「学びの多様化学校」、国は不登校の子どもたちの受け皿として全国で300校の設置を目指しています。
しかし、今後の設置計画を含めても目標の2割にとどまることが、NHKの取材で分かりました。
「学びの多様化学校」は現在、23の自治体に35校設置されていますが、NHKが全国67の都道府県と政令指定都市の教育委員会に対し、11月末時点で特例校の設置予定があるか、聞き取りました。
その結果、今後、設置が予定されているのは22校で、すでに開校した学校とあわせても57校にとどまることがわかりました。
これは、国の設置目標、300校の19%にとどまっています。
課題は予算面や教員の確保 地域的な格差も浮き彫りに
自治体からは予算面や教員の確保が課題だという声があがり、地域的な格差も浮き彫りとなりました。
国は、3年後の2027年までにすべての都道府県と政令市に設置したいとしていますが、67の自治体の4割余り、30自治体では「設置予定がない」と回答しました。
各教育委員会からは、建物や設置場所の選定、それに予算面などが課題だという声が多かったほか、深刻な教員不足を背景に「必要な人材を確保できるか不透明だ」という意見も聞かれました。
文部科学省は、設置する際の予算の補助を行っているほか、手続きの簡易化や開校した学校の事例を共有するなどしていて、今後、さらなる設置を促しています。
東京都 既存の学校に不登校特例校の仕組みを導入
課題がある中、独自の形で不登校支援に取り組む自治体もあります。
これまでに公立では5つの「学びの多様化学校」を設置した東京都。
不登校の子どもが増え続ける中、新たな特例校を設置するには、土地や建物の確保が難しく、課題となっていました。
このため都がことし4月から始めたのが、既存の学校の中に不登校特例校の仕組みを導入する独自の制度です。
同じ校舎に通常の学校と特例校の2つがあるイメージです。
都内の10校で始まったこの取り組み。
このうち、中野区立中野中学校では、通常の学級と同じフロアに「N組」と名付けた「チャレンジクラス」が設けられ、区内の7人の生徒が通っています。
「チャレンジクラス」の生徒の多くは午前9時半ごろまでに登校し、もっと遅く自分のペースで登校する生徒もいます。
「チャレンジクラス」の授業のカリキュラムの時間は通常の7割程度で、担任を含む6人の教員が授業を担当します。
通常の学級を担当する教員も授業に入って学習指導を行います。
同じ校舎内なので、不登校だった「チャレンジクラス」の生徒が通常の学級の生徒とはなるべくあわないよう導線を分けるなど配慮されているということです。
「チャレンジクラス」に通う中学2年の女子生徒
「不登校から抜け出したいという思いで来ました。授業の量は前の学校よりも少ないですが、少人数でわかりやすく友達もできてよかったです」
竹之内勝校長
「子ども自身が『こういう形であれば学校に通える』という、社会へ出る一歩への様々な選択肢があることが大切だ。通常の学校の中にあることで、多くの教員と関わることができ、様々な人生モデルと出会える良さもあると思う」
専門家「各都道府県 政令市に1校は『学びの多様化学校』設置を」
不登校やいじめの問題に詳しい上越教育大学いじめ・生徒指導研究センターの高橋知己センター長は「校内に学びの場を設ける自治体もあるが、そこに通えない子のセーフティーネットとして、各都道府県・政令市に1校は『学びの多様化学校』を設置するのが望ましい」と指摘しています。
一方で、教員の数や志願者が減る中、学びの多様化学校に従事する教職員の確保は難しい課題となっているとして、「箱物を作る財政的な負担もあり、『コスパ』を考えて二の足を踏む自治体もあるかもしれない」と分析しています。
こうした課題に加えて地方ほど、通学距離や通学手段が大きな課題となるため、設置が苦しいという状況になり得るとして、「都市部と地方での支援の格差も出てきており、対応を検討しなければいけない」と指摘します。
高橋センター長は「『学びの多様化学校』の教員のうち3割程度については一定の研修を受けることで教員免許状を持っていなくてもよいといった、弾力的な制度の運用を考えてもいいのではないか」としたうえで、「現存の学校も不登校の子を出さないような新しい学びの形についてもっと探究していく必要がある」と話しています。
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