1月の能登半島地震で被災した半島北部は、2〜3年前から群発地震に見舞われている。1年前の昨年5月、石川県珠洲市では震度6強の地震があり、「再建が見えない」と漏らす住民もいる。専門家は、被災者が自己否定に陥るケースもあると指摘。建物などの財産的被害だけでなく、心のケアなどの対応も重要だと訴える。
「また地震か」――。珠洲市の建設業、新出浩昭さん(63)は築100年以上の自宅が昨年5月の地震で被災。かろうじて立っていたが、今年1月の地震で完全に倒壊した。
昨年の地震から入居する仮設住宅は損壊を免れたが、断水長期化などにより不便な生活を余儀なくされた。仮設にいられるのは来年夏ごろまでだが、自宅再建に向けた土地確保のめどすら立たず「期限まで出て行くことはできないだろう」とこぼす。
1月の地震後、市外に避難する住民が増えた。新出さんが経営する会社は道路復旧などの工事を請け負っており「自分が珠洲を離れるわけにはいかない。道路を直すことで、離れた人が戻ってくるきっかけになれば」と語る。
能登半島では2020年末ごろから地震が続き、特に大きな揺れに見舞われたのが珠洲市だ。昨年5月5日に発生した震度6強の地震では1人が死亡、46人が重軽傷を負った。市によると、住宅被害は約350棟の全半壊を含む計約3300棟に上った。
泉谷満寿裕市長は、中小企業のなりわい再建が課題だとの認識を示し「設備を修繕して再び被害を受けた事業者もある。再被災の状況を調べて対応したい」と話した。
全国的に災害が頻発する中、短期間に何度も被災する「多重被災」は各地で見られる。福島県では21年2月、最大震度6強の地震で沿岸部を中心に住宅2万3千棟超が損壊。その約1年後の22年3月にも再び震度6強の地震が起き、約3万5千棟が被災した。
佐賀県武雄市は19年と21年、豪雨の影響で広範囲が浸水。支援団体によると、浸水家屋の再建がままならないケースもあるという。
度重なる被災は住民の心理面にも影響を及ぼす。明治大の小林秀行准教授(災害社会学)が昨年11〜12月、珠洲市民約420人を対象とした被災後の心境などに関するアンケート結果によると、「多重被災で再建への気持ちがそがれた」との回答が約6割に上った。
「申し訳ない」「情けない」といった思いを持つ被災者もそれぞれ約2割いた。小林准教授は「何度も被害を受けて被災者自身が萎縮し、前を向けなくなっている可能性がある」と指摘。自治体やNPOが戸別訪問するなど、被災者に寄り添った息の長い支援を続ける必要があると指摘した。〔共同〕
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