管工機材販売の橋本総業(東京・中央)が委託先の運送会社に残業代などを支払っていなかった問題で、公正取引委員会は12日、独占禁止法の「確約手続き」に基づく行政処分を同社に出した。同社は公取委に提出した改善計画に従って、再発防止措置を講じ、被害相当額として計約3800万円を運送会社に支払う。計画の履行状況は独立した第三者が監視する。

荷主と運送会社の間の不公正な取引を規制する「物流特殊指定」に基づく行政処分は初めて。公取委は同社の改善計画が履行されれば、運送会社に不利益が生じかねない荷主優位の商慣行が是正されると判断した。

公取委によると、同社は取り扱い製品の取引先への配送業務を約30社の運送会社に委託していたが、遅くとも2017年7月以降、約25社との取引で違反が疑われる行為が確認された。

「物流特殊指定」では荷主の禁止行為として9つの類型を定めているが、このうち同社は▽不当な経済上の利益の提供要請▽買いたたき▽代金の減額――を行っていた疑いがある。

具体的には決められた業務時間を超えて作業した分の時間外料金を支払わず、配送センターでの積み込み作業といった付帯作業を無償で行わせていたほか、業務内容に対して代金を著しく低く設定していたケースもあった。公取委が同種の業務の人件費率を基に推計したところ、ドライバーに支払われる1時間あたりの賃金は最低賃金を下回っているものもあった。

代金の振込手数料を運送会社側に肩代わりさせたり、「割戻金」名目で代金から一定額を差し引いたりしている事例もあった。

公取委は6月に独禁法違反の疑いで橋本総業に立ち入り検査に入った。同社は同法の「確約手続き」に基づき、改善計画を提出し、公取委は違反の疑いを解消する実効性があると判断した。

計画では、違反が疑われる行為が確認された約25社へ被害相当額として計約3800万円を支払うほか、5年間は同様の行為を取りやめる再発防止措置を講じた上で、同社が選任した弁護士が履行状況の監視や報告を行うとしている。

確約手続きは改善計画によって独禁法上の懸念が解消されるなどと公取委が認めれば違反を認定せず、調査を終える行政処分。公取委は7月、これまで3年間としてきた再発防止措置を原則5年間以上に延長し、弁護士などの第三者による改善状況の監視・報告など処分後の監視体制を強化すると発表した。

公取委は特定の業種ごとに独禁法が禁じる不公正な取引方法を「特殊指定」として規制している。「物流特殊指定」は04年に告示された。

今回の行政処分の背景には物流業界の荷主優位の商慣行が運送会社に不当な負担を強いている現実がある。トラック運転手の時間外労働に上限規制を導入する「24年問題」の対応に迫られる中、公取委は不公正な商慣行を放置したままでは労働環境の悪化や労務費転嫁の阻害につながりかねないとみている。

11月にも取引先の運送会社に時間外料金を払っていなかったのが独禁法違反(不公正な取引方法)にあたる恐れがあるとして、オフィス家具大手のイトーキに警告を出した。

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