経済協力開発機構(OECD)が実施した国際成人力調査(PIAAC)で、日本は前回1位だった読解力と数的思考力で2位、初めて試した問題解決能力で1位と好成績を維持した。調査は11年ぶりで、31カ国・地域が参加。日本は進学率の向上などを背景に、平均得点の高い若年層が全体の水準をけん引した。

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「数的思考力」は2位 16〜24歳がピーク

数的思考力は「成人期における様々な状況での数学的な要求に取り組み、対処するために、複数の方法で表現された数学的な内容、情報、アイデアにアクセスし、利用し、批判的に推論すること」と定義された。表や図から数値などを読み取る問題が出題された。

満点は500点で、得点が高い方から習得度をレベル5(376点以上)〜レベル1未満(176点未満)の6段階に分類した。レベル4以上が24.7%に上り、参加国・地域の中で2番目に高かった。前回調査に比べてレベル4以上の割合は6ポイント増加した。

日本はいずれの年齢層においても、OECD平均を30点近く上回った。特に若年層の高得点が全体の習熟度レベルを引き上げている。16〜24歳の平均点は298.7点と高く、参加国・地域の中で1位だった。

文部科学省の担当者は「高校や大学の進学率が上がっており、より高度な学びに接する児童生徒が増えたことが影響しているのだろう」と指摘した。

一方、16〜24歳をピークに、年齢層が上がるごとに数的思考力が低くなる傾向があった。45〜54歳の層の平均点は289.7点だった。

文科省は、若年層以降の点数の低下の背景には、博士号などの取得者の割合、社会人の自己啓発を行う割合の低さがあるとみる。

男女別では男性の平均点(296.8点)が女性(284.7点)を上回り、有意な得点差があった。OECD平均でも男性が女性を9.6点上回った。読解力は女性、問題解決能力は男性の方が平均点が高かったが、有意な得点差ではなかった。

専攻による差も明らかになった。STEM(科学、技術、工学、数学)の高等教育を修了した成人の平均点は、それ以外のケースを上回った。STEMを修了した男性の平均点は335.9点で、非STEMの男性(316.6点)よりも19.3点高かった。STEMの女性も非STEMの女性に比べて19.7点高かった。

「数的思考力」のサンプル問題。正解は「52(壁紙の幅)、10.05(壁紙の長さ)、2.2(壁の幅)、2.5(壁の高さ)」

OECDが示したサンプル問題では、マイナス20〜同15度を維持しなければならない冷凍室について、提示された3つの温度が許容範囲内かを聞いた。別の問題では寝室に貼る壁紙のロール数を計算で求める場面を設定。寝室の図面や壁紙の大きさなどを見て、計算に必要な数値を入力させた。

「読解力」も2位、低習熟の割合は微増 

OECDはPIAACにおける読解力を「自分の目標を達成し、知識と可能性を伸ばし、社会に参加するために、書かれたテキストにアクセスし、理解し、評価し、熟考すること」と定義。記事や掲示物など様々な形で書かれた文章を読み、必要な情報を読み取る能力などを測った。

満点は500点で、「数的思考力」と同じ6段階で習熟度レベルを分類した。日本はレベル4以上が23.4%で、フィンランドに次いで2番目に高かった。

レベル1以下の低い習熟度の割合は10.4%で参加国・地域の中で最も少なかったが、2011年の前回調査より4ポイント増加した。

調査を担当する国立教育政策研究所の担当者は「45歳以上で読解力の低下が大きいことが、習熟度レベル1以下の人が増えた理由だと考えられる」と分析する。

年齢層別でみると、25〜34歳の平均点が301.1点で最も高かった。35歳以降は右肩下がりで、45〜54歳は287.4点、55〜65歳は267.7点だった。

日本全体の平均点はOECD平均を29点上回る289点で、順位は前回調査から1つ下がり2位。前回調査で2位だったフィンランドと順位が逆転した理由として、文科省の担当者は「フィンランドでは修士や博士課程を修了した高学歴者の割合が高く、高得点の人が増えたことが一つの要因として考えられる」とした。

各国でも学歴が高いほど読解力が高い傾向が見られた。日本では、高等教育修了者の平均点は308点で、後期中等教育修了者に比べて34点、後期中等教育未満の調査対象者に比べて87点高かった。また、親の学歴が高いほど本人の習熟度が高い傾向にあった。

「読解力」のサンプル問題。正解は上から順に「両方、パン、両方」

OECDが公表したサンプル問題では、パンとクラッカーが空気に触れるとどのように変化するか説明した文章を読み、内容を理解しているかを試した。文章によると、パンは水分が奪われて硬くなる一方、クラッカーは水分を吸収してやわらかくなる。「鮮度を保つためにラップをかける」といった3つの記述について、文章の内容を踏まえ、正しいと言えるかどうかを聞いた。

初実施の「問題解決能力」は1位

初めての調査となった「状況の変化に応じた問題解決能力」は、フィンランドと並んで1位となった。「問題の解決方法がすぐにわからない中、状況の変化に応じて、自分の目標を達成する能力」を測った。

満点は500点で、得点によって高い方からレベル4(326点以上)〜レベル1未満(176点未満)の5段階に分類。日本はレベル1以下の割合が11.2%で、参加国・地域の中で最少だった。レベル4の割合は9.6%でフィンランドに次いで2番目に多く、OECD平均(5.0%)を大きく上回った。

文科省は「読解力や数的思考力が高いことが問題解決能力の高さにもつながっている」とみている。日本は3分野全てでレベル1以下となった人の割合が7.1%で、参加国・地域の中で最も少なかった。OECD平均は18.1%だった。

16〜24歳の平均得点は1位のフィンランド(288点)と1点差の2位(287点)だった。

男女別では男性の平均得点が277.0点で、女性の平均得点(275.6点)を1.4点上回ったが、有意な得点差ではなかった。OECD平均では男性が251.9点、女性が249.4点で有意な得点差がみられた。

「問題解決能力」のサンプル問題。正解は「学校、A店、自宅の順番でタップする」

OECDが示した問題例では、子どもを学校に送り届けた後、買い物に行き、打ち合わせの時間までに帰宅する場合、最速となるルートを選ばせた。買い物に行く予定の店が閉店したときに、どのようにルートを変更するかを聞く問題も示された。

前回の調査では「ITを活用した問題解決能力」が問われ、日本は10位で、OECD平均と同水準の成績だった。パソコンを使ったことがない人の割合が10.2%で、OECD平均を0.9ポイント上回っていたほか、ハイライト表示などパソコンの操作に不慣れな人が少なくないことが明らかになっていた。

OECDは実際の調査で出題した問題は公開しておらず、類似したサンプル問題を公表する。

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