「絞り染め」の技法が用いられた布。細かく粒状に絞った跡が確認できる

 日本最古の染色技法とされる「絞り染め」。その専門美術館「京都絞り工芸館」が京都市中京区にある。

 職人で館長の吉岡健治さん(83)が伝統を未来に残そうと立ち上げた。「今いる職人の生活を守り、若い世代に興味を持ってもらいたい」と意気込む。

 絞り染めは奈良時代に日本へ伝わったとされる。布の一部を糸で縛るなどしてから染料につけ、染まらない部分を作ることで模様を表現。工程ごとに異なる技法が用いられ、専門の職人たちが分業して一つの作品を仕上げている。

 「本疋田絞り」は、米粒ほどの大きさに布をつまみ出して糸で縛り、染め上げる。着物1着分の模様をつけるのに約15万粒を縛る必要があり、完成までに数年かかることもある。

 吉岡さんは京都市内にある絞り染め製造会社の息子として生まれ、父の後を継ぎ職人になった。「絞り染めを広めるには、製造と販売を続けるだけでは駄目なのではないか」。絞り染めの魅力を発信しようと2001年、同館を開館した。

 売り上げは当初ほとんどなかったが、絞り染めの美しさや丁寧な接客が徐々に評判を呼び、現在は国内外から多くの人が訪れるように。吉岡さんら京都の職人の作品は海外の美術館で展示され、高い評価を受けているという。

 一方、進む高齢化や担い手不足など職人を取り巻く状況は厳しい。そこで吉岡さんは技術継承のため、大学で学生に絞り染めを伝授する取り組みも始めた。

 「教えないこと」をあえて意識し、簡単な手順を説明した後は若者のアイデアに制作を委ねている。「自由な発想がやがて技術になり、広まっていく」と確信するからだ。

 現在館内で展示されているのはそれぞれ幅6.5メートル、高さ3メートルもある2作品だ。新型コロナウイルス禍で仕事が激減した職人たちに吉岡さんが声をかけ、1年半ずつかけて仕上げた。

 「絞り染めにできることはまだたくさんあるはず。ぼーっとしていられない」。そう目を輝かせた。

「京都絞り工芸館」館長の吉岡健治さん
「京都絞り工芸館」で展示されている葛飾北斎の「赤富士」をモチーフにした絞り染めの作品
「絞り染め」の技法が用いられた布

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