◆粘り強く実現した、国連本部での原爆展
実情を伝えるには、被爆者の現状を突きつけるしかない。被団協は専門家や市民団体と連携し、全国調査を始める。被爆して30年以上たっても苦しみ続ける約8000人の声を集め、1977年に日本で初めて開かれた国際シンポジウムで報告した。1978年、国連の軍縮特別総会で被爆者らとニューヨークの街をパレード(本人提供)
このころから田中さんは、被害を国際社会に訴える運動へと突き進む。国連の軍縮特別総会をはじめ、次々と国際会議に参加するようになった。働きかけの一つが、ニューヨークの国連本部での「原爆展」の開催だ。写真パネルを使って、被爆の実態を各国の代表に知らせようと考えた。 当初は「国連の側も初めてのことにおっかなびっくりで。残酷な写真は展示できないと言われた」。それでもあきらめない。2005年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、ギャラリー担当の学芸員と交渉。パネル30枚のうち、9枚だけ展示許可が下りた。 大やけどを負った被爆者の写真の隣に、回復後に証言活動をする写真を並べた。被爆者の人生を伝える工夫だ。指定された場所は、会議場と総会の会場をつなぐ通路。「結果的に、数多くの国の代表が見てくれて大反響だった」。すると、国連側が「写真パネルの前で被爆者自身に証言をしてほしい」と求めてきた。机が用意され、パンフレットも置かれた。原爆展は5年ごとに開くNPT再検討会議で催されるようになる。 2010年には、長崎で被爆した谷口稜曄(すみてる)さん(2017年死去)が直接、国連の議場に立った。手には、背中が真っ赤に焼けただれた16歳の自分の写真。「どうか、目をそらさないで」と訴えると、会場の空気が一変。各国代表が総立ちで拍手を送った。被団協のメンバーは海外の若い世代とも交流。訪米時は必ず現地の学校を訪れ、体験を語る。被爆者が世界に発信を始めたことで、「核兵器の非人道性」に光が当たるようになった。◆核廃絶と裏腹な行動をとり続ける日本...
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