大学や高校への進学を目指す生活困窮家庭の子どもたちは、経済的な負担が壁となり、学習塾や家庭教師を利用できないことも少なくない。壁を乗り越える生徒らの背中を押すのが、オンラインでの学習支援。活用が注目される一方で、通信環境の格差という課題も浮かぶ。(中村真暁)
◆「分からないことを聞ける所が欲しかった」
オンラインで生徒と話す三沢和也さん(左)。手元には学校の状況や近況をメモしたタブレットが置かれていた=東京都中央区で
「学校生活はどう? 勉強の振り返りは順調?」。子どもの貧困対策に取り組む認定NPO法人「キッズドア」(東京都中央区)スタッフの三沢和也さん(30)が、都内のビル街の一室でモニターに話しかけた。画面には中国地方の男子高校生(17)の顔。支援は教師とオンラインでつながっているイメージで、勉強を教えるほか、面談では雑談を交え、学習状況や進路希望を聞き取る。 この生徒は塾に通ったことがない。「分からないことを聞ける所が欲しかった。自分の状況をスタッフと共有でき、心の穴が埋まるみたい」と笑顔を見せた。「学校で先生に聞きたくても、どこにいるか探すのが大変。すぐに質問できるオンラインは自分に合っている」と満足そうだ。◆勉強法など伝える受験情報セミナーも
生活困窮家庭へのオンラインによる学習支援などについて話す三沢和也さん(左)と松見幸太郎さん
キッズドアのオンライン学習支援は無料で、ひとり親や住民税非課税といった困窮世帯の高校生が対象。本格始動した2023年度は約100人が利用した。卒業生には、難関私立大や国立大の合格者もいる。 国内外のアルバイト学生らにオンラインで質問できるほか、自室がなくても勉強に集中できるよう、オンラインで入る仮想の「自習室」を設ける。勉強法などを紹介する受験情報セミナーも催す。こうした手法で、自治体の学習支援事業にも参画する方針だ。 執行役員の松見幸太郎さん(54)は「場所の制約を受けないオンラインなら、運営者も利用者も負担が少ない。学習塾などの教育資源が乏しい地域の子も利用できる」と利点を強調した。 ◇◆オンライン学習の「入り口」に立てない子も
生徒の近況などが書かれたタブレットの画面
子育て中の生活困窮世帯の1割にインターネット回線がないことが、キッズドアの調査で分かった。2023年度のキッズドアのオンライン学習支援では、利用者の4人に1人は家庭の通信環境が不十分で、タブレット端末やWiーFiの携帯ルーターを貸し出した。ネット環境が整わず、オンライン学習の「入り口」に立てない子がいる。 調査は昨年9〜10月、生活物資などの支援を受けている家庭を対象に実施。回答した916世帯の9割が母子世帯で、8割超が年収300万円未満だった。 ネット回線が家に「ない」と答えた家庭が9%。「ある」ものの「通信容量制限あり」が15%、「使い放題」が75%だった。所得が低い家庭ほど、回線がない割合が高い傾向にあった。◆「すべての子どもたちがアクセスできる環境整備を」
オンラインで体験活動や人と交流する「オンライン居場所」の利用経験があるのは就学前で5%、小学生16%、中学生19%、高校生世代で18%。いずれの年代も利用したことが「ない」が最多で、6〜8割を占めた。居場所が浸透していない実態が浮かぶ。 中学生では、国のGIGAスクール構想で学校から貸し出された端末を「自由に使える」生徒が19%。「学校の勉強目的に限定して使える」が45%、「使えない・持ち帰っていない」生徒が29%いた。 調査報告書では「家庭のデジタル環境が子どもの学習格差に直結している」と指摘。使い放題のWiーFiや自由に使えるパソコンなどの支援が欠かせないとした。渡辺由美子理事長は「デジタル環境は教育や体験、居場所などさまざまな点で、子どもたちと切り離せない。すべての子どもたちがアクセスできるよう整備が必要だ」と訴えた。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。