広島市平和推進基本条例の制定過程を検証し、その意義を問う本を市民らが出版した。日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞が決まり被爆地に注目が集まる中、「平和に関わる活動をしている人に広く読んでほしい」と呼びかけている。
本のタイトルは「『平和都市』ヒロシマのまがりかど 広島市平和推進基本条例の制定過程を検証する」。制定の過程で条例に疑問を持ち、議論を重ねてきた大学教授やフリーランス記者ら8人が出版した。ほかに、平岡敬・元広島市長も思いを寄稿している。
条例は2021年に議員提案で広島市議会に提出され、可決された。核兵器廃絶に向けた市と市民の役割などを定めており、10条からなる。8月6日の平和記念式典について「市民等の理解と協力の下に、厳粛の中で行う」と規定した6条2項をめぐり、「市民の表現を萎縮させる」と広島弁護士会から懸念の声も出ていた。
本では、田村和之・広島大名誉教授が市議会の会議録を読み、制定過程を検証している。
条例の素案は、市議会各会派の代表による「政策立案検討会議」が作り、パブリックコメントを募った。約1千件の意見が市民から寄せられたが、条例の文言を修正するには全会一致が原則であるためにまとまらず、意見のほぼ全てが反映されなかったという。
田村名誉教授は「『被爆75年を迎え』を『被爆から75年が過ぎ』に修正した以外、重要あるいは貴重な提案・意見を含めて、提出された市民意見はすべて葬り去られた」と指摘する。市民意見には「朝鮮の人などが被爆したことを書き込むべき」「『原爆はアメリカが投下した』と書くべし」という声もあったという。
一方、その後の各派幹事長会議で出された修正案では、素案にあった「(市民は)本市の平和の推進に関する施策に協力する」などの文言が削除された。市民から反対の意見が寄せられ、修正を求めた市議らもいた。
フリーランス記者の宮崎園子さんはあとがきで「核兵器も戦争もない社会をしっかり見据えた上で、被爆地とはなんなのか、ヒロシマとは何を訴えるまちなのか、について、再定義する必要がある」と論じた。ほかに、NPO法人「ANT―Hiroshima」の渡部久仁子さんが、市議会での初めてのロビー活動を振り返った記録も収録されている。
田村名誉教授は2日の会見で「市の平和行政を考えたいと、多彩なメンバーが集まった。それぞれの視点で問題提起があり、おもしろい本になった」と話した。
全国の書店やネットショップで購入できる。西日本出版社発行。四六判248ページ。税込1870円。
筆者らによる出版記念トークイベントも2回ある。8日午後1時半からは中区袋町6の36の「合人社ウェンディひと・まちプラザ」、15日午後7時からは同区土橋町2の43のソーシャルブックカフェ「ハチドリ舎」で。問い合わせは田村名誉教授(082・228・9762)へ。
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