日本人年金生活者の長期滞在先としても知られるタイ北部チェンマイで、毎年2~4月ごろの大気汚染が深刻化している。主な原因は都市部でイメージする車の排ガスなどではなく、農民の野焼きだ。気候変動も影響して山火事への発展が増え、微小粒子状物質「PM2.5」などの汚染濃度が世界最悪を観測する日もある。市民生活や観光への打撃は大きいが、対策は進んでいない。(共同通信=伊藤元輝)
▽消火
3月中旬、チェンマイ中心部から車で1時間ほどの山中。野焼きから燃え広がったとみられる炎がバチバチと音を立て、勢いを増していた。間もなく5人ほどの消防隊員を荷台に乗せたトラックが駆け付けた。バイクで見回って野焼きをやめさせる監視団から、通報を受けたという。発動機で風をつくって周囲の枯れ葉を取り除くと、ほうきのような道具で炎を払って消火した。
隊員は「1日平均で15回ぐらい出動している」と肩で息をしながら語った。野焼きは2~4月、トウモロコシなどの収穫後に活発化。枯れ葉や害虫を手っ取り早く取り除き、次の作付けに備える手段として定着している。大気汚染対策で地元当局は禁止し見回りを強化するが「代替手段がない」(地元住民)と人目を盗んで続けられている。
▽原因
「野焼きは昔からあり、20年前には空気の悪化が確認されていた。ただ、気候変動の影響で深刻化している」。チェンマイ大のワン・ウィリヤ助教授(環境科学)はこう解説する。高温と空気の乾燥が年々悪化し、野焼きが燃え広がりやすい状況が長期化。さらに汚染された大気はチェンマイを取り囲む山々に阻まれて滞留する。
都市部とは異なる原因に海外の研究者からも注目が集まっているという。隣国のミャンマーとラオスでも野焼きがあり、大気が流入する。
▽最悪
タイメディアによると、記者が訪れた3月15~16日、スイスの空気清浄器メーカーが運営する大気汚染計測サイトの世界都市別ランキングで、チェンマイのPM2.5などの汚染濃度は世界最悪を記録した。街には灰色のもやがかかって遠くの山並みが見えず、目やのどに痛みを感じた。世界最悪は3月中旬で5回以上記録しているという。
地元記者によると、チェンマイは長期滞在希望の外国人に本来は人気だが、敬遠されるようになってきている。観光スポットの路上で屋台を営むブアパンさん(64)は「外にいるのが本当につらい。商売にも影響が大きい」と嘆いた。
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