“川幅狭く 水位上がりやすい”日本の都市部でも

1点目は氾濫の状況です。
多くの犠牲者が出たパイポルタで撮影された映像では、市街地を流れる川に濁流が次々と押し寄せ、橋の付近で周囲にあふれ出していることが確認できます。

この洪水について河川工学が専門の東京大学の芳村圭教授が指摘したのは「避難の難しさ」です。

パイポルタを流れる川について芳村教授は川幅が比較的狭いため、水位が上がりやすい特徴があると指摘しています。

一方、現地の気象当局のデータによりますと今回は川の上流側にあたる地域で大雨が降り、局地的には8時間に491ミリと1年間の降水量にあたる大雨が観測された一方、下流にあたるバレンシアやパイポルタではあまり降っていませんでした。

さらに、川の下流側はふだんの水位が非常に低く、芳村教授は次のように話しています。

河川工学が専門 東京大学 芳村圭教授

東京大学 芳村圭教授
「住民としてはふだん『ほとんど水が流れていない川』という認識だったとみられる。さらに映像からは住宅地に向かって急激に水の量が増えた状況もわかり逃げる間もないくらいの水位上昇だったのではないかと思う」

芳村教授はパイポルタを流れる川のように川幅の狭い河川は日本の都市部でも多く見られるとしています。

川の長さや整備状況などは異なりますが、2008年(平成20年)には神戸市を流れる都賀川で、わずか10分間で水位が1メートル30センチも上昇し、遊びに来ていた小学生など5人が流されて死亡しました。

また、芳村教授は今回の記録的な大雨の背景に地球温暖化の影響もあるとして「これまで洪水が起きていないから安全と考えず川のキャパシティーを大きく上回る洪水がどこで起きてもおかしくないと考えて対策を進めるべきだ」と指摘しています。

災害リスクがある地域で人口増 日本への教訓

一方、都市の広がり方にも日本への教訓が含まれているという指摘があります。

都市計画が専門 信州大学 佐倉弘祐助教

都市計画が専門でスペイン・バレンシア州の都市の成り立ちに詳しい、信州大学の佐倉弘祐助教は、今回の洪水被害は「浸水リスクのある場所に街が集中した影響が大きい」と指摘しています。

佐倉助教によりますと、バレンシア州では1957年の洪水で大きな被害を受けたため市街地の中心部を流れる「トゥリア川」を南に移し、流量を増やす治水工事を行うと同時に、交通インフラなども整備され川の南側にも都市が広がったといいます。

今回の洪水で大きな被害が出たのがトゥリア川の南側にあたるパイポルタなどでした。

州政府が農地の管理のためにまとめた資料では、パイポルタやその周辺は1980年の時点では、大半が緑色で示す農地でしたが、30年近くたった2008年では灰色で示す、都市化された地域に変わっていったことがうかがえます。

パイポルタの人口は1950年には3591人でしたが、1981年には1万4610人、2021年には2万6617人にまで増えていて、周辺の都市も同様に増加しているところがありました。

佐倉助教は、洪水対策のためのインフラ整備が追いついていなかったと指摘しています。

信州大学 佐倉弘祐助教
「人口が増える受け皿として洪水被害を受けやすい場所が選ばれてしまった。中心市街地のインフラ整備をする一方、南部の整備が後回しになったことも被害に影響したのではないか」

佐倉助教は計画性のないまま郊外へ都市が広がっていくいわゆる「スプロール現象」に伴って災害リスクがある地域に人口が増える状況は日本も共通しているのではないかと指摘します。

NHKが全国の自治体の浸水想定区域図と国勢調査の人口データをもとに分析したところ、2015年の時点で、全国で浸水リスクがある場所で暮らす人は人口の4割近くにあたるおよそ4700万人で、1995年からの20年で177万人余り増えています。

都市部の河川の近くに大規模なマンションが出来たり、郊外の農地が宅地化されたりしたことが背景にあるとみられています。

信州大学 佐倉弘祐助教
「日本ではコンパクトシティーを目指す流れはあるが、地方都市でスプロールが進んでいるのが実態だ。リスクの高い場所に住むからには、地域のリスクを把握したうえで建築のあり方や生活のしかたを考える必要がある」

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