「かくれてしまえばいいのです」。生きるのがしんどい子どもや若者向けに、こんな名前のウェブサイトが公開されて注目を集めている。自殺防止対策に取り組むNPO法人「ライフリンク」(東京)が絵本作家のヨシタケシンスケさんの全面協力を受けて開設した。ネット上の「かくれが」に込められた思いとは。(山田雄之)

◆「かくれるのっていけないことじゃない」

「かくれてしまえばいいのです」のウェブサイト=ライフリンク提供

 「かくれがで遊ぶことにしたら、少し落ち着いてきた」「かくれるのっていけないことじゃないんだと教えてくれる」「今しんどい人、悩んでいる人は行ってみてほしい」。X(旧ツイッター)上には「かくれてしまえばいいのです」への投稿があふれている。  3月1日にオープンしたウェブサイトは「もしあなたが生きるのがしんどくて、この世からいなくなりたいと思っているなら、まずは1回かくれてしまいましょう」との提案を具現化した空間。ヨシタケさんによる優しいタッチで描かれた「かくれが」が広がる。  死に対して「むきあうエリア」と「やりすごすエリア」に分かれており、計九つのコーナーを用意。匿名・無料で24時間利用でき、4月17日にアクセス数は300万件を突破し、現在も1日5万件前後で推移しているという。

◆「相談したくない人にも居心地が良い場所に」

 運営するライフリンクの清水康之代表(52)は「想像以上の反響に驚いている。自分から外部に相談できない人、相談したくない人にも居心地が良い場所になってほしい」と語る。  東京新聞「こちら特報部」の記者も、アバターになってサイトに入ってみた。まずは「むきあうエリア」の「むかんけいばあちゃんの部屋」に。管理人のばあちゃんが「家族でも、先生でも、上司でも、クラスメートでもない。何を話しても大丈夫」と呼びかけてくれる。ここではヨシタケさんの描き下ろしで、つらい気持ちに寄り添う17話の小話を読める。  同じエリアの「ロボとおしゃべりコーナー」は気持ちを打ち込むと人工知能(AI)と会話でき、悩みを打ち明けられる。「まずは自分の思いを外に出すことが大切。相談する練習の場」と清水さんは言う。  「やりすごすエリア」には、ミニゲームが楽しめる「ゲーム自習室」、著名人がおすすめの映画や場所、つらいときのやり過ごし方を紹介する「オススメ市場」といったコーナーも。清水さんは「死にたい気持ちからとにかく一瞬でも別の気持ちになって、『もう少し生きるか』『生きてていいかも』と思ってもらいたい」と語る。

◆「そんな自分を肯定できる場所に」

 サイト開設の背景には、子どもや若者の深刻な問題がある。2022年は小中高生の自殺者が過去最多の514人となり、昨年も513人と高止まる。ライフリンクが18年3月から運営する交流サイト(SNS)相談「生きづらびっと」には毎月1万人前後のアクセスがあり、相談者の6割弱を20代以下が占める。  1日30人ほどのスタッフで対応しているが、「電話より相談しやすい半面、SNSの文字だけではどうしても情報量が少なくなるので、相談を深めていくのに時間がかかる傾向にある」(清水さん)。23年度、スタッフが相談に対応できた割合は今年2月までは39〜54%で推移したが、アクセスが1万5000人を超えた3月は25%まで落ち込んだ。すぐの相談に至らなくても、従来とは別の受け皿となる場所の必要性から生まれたのが今回のサイトだ。  04年にライフリンクを設立し「誰も自殺に追い込まれることのない生き心地の良い社会」を目指して活動している清水さん。「死にたい気持ちは簡単にはなくならない。でもその気持ちを抱えながら生きていくこともできるし、そんな自分を肯定できる場所になってほしい」と願っている。 

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