中日新聞社(東京新聞)の第77回中日文化賞の受賞者が、4氏に決まった。  日本国憲法の施行を記念し、1947年に中日新聞社が創設。学術、人文、芸術などの分野で文化の向上に寄与した中部地方ゆかりの個人や団体に贈っている。各受賞者に正賞の時計と副賞100万円、賞状を贈る。

中日文化賞に決まった、左から原昌宏、佐川眞人、藤井聡太、小森邦衛の各氏

受賞者と業績(順不同)
デンソーウェーブ主席技師・原昌宏氏(66)
 =名古屋市=「QRコード開発と普及によるデジタル社会への貢献」
大同特殊鋼顧問・佐川眞人氏(80)
 =京都市=「ネオジム磁石の発明と脱炭素社会の推進」
棋士・藤井聡太氏(21)
 =愛知県瀬戸市=「将棋八大タイトル独占と将棋文化の振興」
漆芸家、重要無形文化財「髹漆(きゅうしつ)」保持者・小森邦衛氏(79)
 =石川県輪島市=「創造的な漆表現と輪島塗産地への貢献」   ◇  ◇

◆原昌宏さん 碁石からひらめいたQRコード「文化をつくったことを評価いただいた」

 キャッシュレス決済、電子チケット…。さまざまな情報を高速で読み取る「QRコード」。白と黒のモザイク模様は誕生から今年30年を迎え、目にしない日はない。「文化をつくったことを評価いただき、本当にうれしい」と受賞を喜ぶ。  デンソー時代の1992年、自動車部品工場の生産管理のために開発が始まった。それまでバーコードを使っていたが、部品の多品種化が進み、情報量をより多く格納できるツールを生産現場から求められた。

デンソーウェーブの原昌宏さん

 縦と横の両方向で情報を読み取る2次元コードは、子どもの頃から趣味の囲碁からヒントを得た。碁盤に白と黒の碁石がランダムに並ぶ様子を見て「マス目をすべて埋めなくても状況を認識できる」とひらめいた。三隅に目印となる正方形の模様を配置し、どの方向からでも瞬時に読み取れるようにした。  94年に完成したQRコードはバーコードの約200倍の情報量で、一部が欠けても読める。取得した特許は普及を優先させるために無償で開放した。2000年代のカメラ付き携帯電話の登場で一般市民にも利用が広がった。「選んだ道は正しかった」とうなずく。  小学生の時、テレビでアポロ11号の月面着陸の中継を見て技術者を志した。今も現場に出向いて利用者の要望を聞き、改善を惜しまない。「今後は文字情報だけでなく、患者のエックス線画像など、より多くの情報を入れられるようにしたい」と、さらなる進化を見据える。(平井良信)

原昌宏(はら・まさひろ) 1957年、東京都生まれ。法政大卒。80年に日本電装(現デンソー)に入社。2023年に恩賜賞・日本学士院賞。


◆佐川眞人さん ネオジム電池で脱炭素社会に貢献「人が地球に住み続けるために」

 電気自動車(EV)のモーターなどに欠かせないネオジム磁石。「世界最強の永久磁石」の開発をサラリーマン研究者として成功させた。「日本の中心の中部を代表する賞を頂けるのは名誉なこと」と喜ぶ。  戦時下の徳島を生後間もなく離れ、父親が勤めていた岐阜県那加町(現・各務原市)で育った。母親に背負われ、空襲から逃げ回った。戦後は徳島に戻り、父親に読み聞かせてもらった湯川秀樹の新聞記事で科学者への憧れを募らせた。

大同特殊鋼顧問の佐川眞人さん

 東北大大学院を修了後、富士通に就職。当時、最強とされていた永久磁石の強度を高めるよう指示され、より強い磁石を追い求めたものの、打ち切りを言い渡されてしまう。38歳で退職し、移った住友特殊金属(現・プロテリアル)で研究を続け、希土類(レアアース)のネオジムと鉄、ホウ素からなるネオジム磁石を生み出した。  自ら磁場を発生し続ける永久磁石で、磁力は従来の永久磁石の2倍。少ない電力で大きな力を生むため、エアコンなどの省電力化につながった。温室効果ガス排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル社会に向けても一役買っている。 1988年に独立し、技術を受け継いだ大同特殊鋼グループがネオジム磁石を量産する。名城大カーボンニュートラル研究推進機構シニアフェローも務め、学生らに向け「人が地球に住み続けるためにも、カーボンニュートラルは重要な研究テーマだと伝えたい」と語る。(鈴木凜平)

佐川眞人(さがわ・まさと) 1943年、徳島市生まれ。神戸大を経て東北大大学院博士課程修了。2022年、英エリザベス女王工学賞。

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