日本国憲法は3日、施行77年を迎えた。憲法に詳しい弁護士の伊藤真さん(65)は、個人の尊重をうたう13条の大切さを説く。一人一人がありのままの存在を認められ、隣にいる人も同じように認められる―。この考え方は、世界の平和につながるという。憲法記念日に、大人も子どもも考えてみませんか。(聞き手・今川綾音)

日本国憲法(抜粋) 第13条 すべて国民は、個人として尊重される。 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

◆生きているだけで価値があるということ

―憲法と法律は、どう違うのでしょうか?  「憲法は法律の親分で、一番大切な法律だ」。そう思っている人が多いかもしれません。実は、誰が何のために守るルールなのかが違います。  法律は、安心して安全に暮らせる社会にするために国がつくり、国民が守るルールです。

「日本国憲法の第13条はとても大切な条文」と話す弁護士の伊藤真さん

 憲法は、国会議員や公務員といった国の側で仕事をする人たちが、好き勝手なことをしないように守るルールです。 ―「個人の尊重」とはどういう内容ですか?  二つのことを言っています。一つは、みんなの個性を大事にすること。見た目も心の中も、人はそれぞれ違います。みんな違っていいし、違うことが素晴らしいのだと認め合い、どうやってみんなで一緒に生きていくかを考えようということです。「親子や友だちであっても、違うのが当たり前。分かり合えないことが当然」。そこをスタートにすると、人との関わりがもっと面白くなります。  もう一つは、自分以外の人たちにも同じように価値があるのだから、大事にしようということ。何かの役に立つから価値があるのではなく、生きているだけで価値がある。生まれてこなくてもよかった子どもなんて、一人もいません。

◆現実に合わせて理想を引き下げるのではなく

―そう思えるようになるためには、どうしたらよいのでしょうか?  お金が稼げるか、便利かどうかということだけではなく、誰もが生きやすい社会のために必要な福祉や教育、人権といった、いろいろなものさしを持ってください。今、何も不自由のない立場にいたとしても、災害や病気で、いつ困ったり不自由な立場になったりするか、分かりません。人数が少ない側や、弱い側の人の気持ちを考えられる人になってほしいです。 ―世界の平和とどうつながるのでしょう  13条の考え方を、人と人との関係から国と国との関係に広げて、一緒に生きていく道を考えていきましょう。それが「戦争放棄」を宣言した9条です。文化や歴史、宗教が違い、同じ考え方を持てそうにない国とも、同じ地球でずっと一緒に暮らしていくお隣さん同士として、うまくやっていくしかありません。

「日本国憲法の第13条はとても大切な条文」と話す弁護士の伊藤真さん

 この考え方の土台には憲法前文があります。「どの国にも平和を愛する人がいる」と信じ、日本の憲法なのに、わざわざ「全世界の国民が平和に生きる権利がある」と言っています。 ―でも、日本が目指す平和主義と、戦争がいくつも起きている今の世界は大きく違うように見えます  それは今の世界が、前文や9条に書いてある「武力に頼らずに平和を実現する」という段階にまだ届いていないからです。目の前の世界に合わせて理想を引き下げるのではなく、立場が違う国に「一緒にやっていこう」と伝え、働きかけていくことが必要です。対立する一方の側を応援するのではなく「争いをやめましょう」と持ちかけていくことこそ、日本がやるべきこと。スポーツや受験と同じで、理想に向かって努力することが大事なのです。

伊藤真(いとう・まこと) 法律資格の受験指導校「伊藤塾」塾長。法学館憲法研究所所長。弁護士。講演・執筆活動を通して日本国憲法の理念を伝える。憲法についての主な著書に「憲法の力」「けんぽうのえほん あなたこそたからもの」など。

<インタビュー詳報は「東京すくすく」で無料で読めます>
 ①憲法と法律の違いって? 「誰が何のために守るルールか」が異なります
 ②憲法で一番大切な条文は? 「子どもの生き方」とも深く関係します
 ③平和をうたう9条 世界の現実とのズレをどう受け止めればいいの? 

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