◆自信ありげに「再生させるのが得意」
問題になっているのは東京都千代田区の投資会社「ルシアンホールディングス」。自らの商社も被害に遭い、「被害者の会」を取りまとめる富山市の荒川公一さん(61)によると、2021~23年にかけ、全国の37社が被害に遭った。業種は飲食会社や建設、電気工事など幅広い。複数のM&A仲介業者を通じ買収を持ちかけていた。ルシアンホールディングスが本社所在地としていた東京・丸の内にある大型ビル=東京都千代田区で
都内で洋菓子店を経営していた企業もその一つ。経営していた60代男性は、経営不振から売却を考えていたところ、仲介業者からルシアンを紹介された。面談で、ルシアン役員は「うちは資金状態の悪い会社を再生させるのが得意」と自信ありげに語ったという。◆「家も差し押さえられ人生が狂った」
昨年4月に自社の株式を売却。代表取締役にはルシアン役員が就いた。しかし、会社の連帯保証人を新経営陣に切り替えるはずが、ルシアン側は多忙を理由に変更しなかった。一方、ルシアン役員は社長として月100万円の役員報酬を取り、従業員から借りた1000万円を踏み倒した上、2カ月分の従業員給与を未払いのまま消息を絶った。 横浜市の電気工事会社も昨年1月、ルシアン関係会社に株式を譲渡した。ルシアン側は連帯保証人を引き継がず、会社の資金1000万円を抜き取った後、連絡を絶った。債務約6億円を残された前経営者の30代男性は「家も預金口座も差し押さえられ、人生を狂わされた。悪質な企業を仲介した業者の責任も大きい」と訴える。◆国が推進する施策なのに監視体制なし
中小企業の多くが経営者の高齢化や後継者不足に悩む中、中小企業庁は選択肢の一つとしてM&Aを推奨。買い手側に税制の緩和措置を設け、中小企業が支えてきた雇用や技術を受け継ぐよう支援してきた。 その一方、悪質な企業の参入を監視する体制はなく、仲介業者向けの留意点をまとめたガイドラインがあるのみだ。中小企業庁財務課の担当者は「(ルシアンの件が)事実だとすれば何らかの対策を検討しなければならない」と説明するが、ある仲介業者は「最初から契約を守る気のない企業が入り込むのを防ぐのは難しい」と打ち明ける。 現在、ルシアン役員との連絡はつかない状態。被害者の会は「資金を抜き取るのが狙いだった」として、警視庁捜査2課に被害を相談しているという。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。