洋上風力発電を巡る汚職事件で、前衆院議員の秋本真利被告(49)は25日の東京地裁での初公判で受託収賄罪について起訴内容を否認した。「金銭授受は職務と関係なく利益供与はない」として無罪を主張。国会質問の見返りに賄賂を受け取ったとする検察側と全面的に争う姿勢を示した。

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「検察の誤った見立てで起訴された」。濃紺のスーツ姿で出廷した秋本前議員は、罪状認否でそう述べた。贈賄罪に問われた日本風力開発(東京・千代田)の元社長、塚脇正幸被告(65)も「全くの誤りだ」と無実を訴えた。

検察側の冒頭陳述によると、同社が参入を目指していた青森県沖での事業が防衛関連施設との兼ね合いで頓挫しそうになり、塚脇元社長は事態を打開するために面識があった秋本前議員に接近。以前から「洋上風力発電の普及拡大に積極的で利用価値がある」と認識しており、同社の意向に沿った国会質問を依頼した。

実際に秋本前議員は2019年2月の衆院予算委員会で、防衛関連施設を理由とした過度な規制をしないよう求めた上で、青森県沖での発電事業を進めるべきだと言及。22年2月には公募事業の選定基準を見直すよう要望し、同社に有利な答弁が引き出されて基準が見直されるなどした。

検察側は、秋本前議員がこれらの質問に先立ち、塚脇元社長側と内容の擦り合わせをしていたと指摘。元社長は「国会質問への謝礼や今後も同様の有利かつ便宜な取り計らいを受けたい」との趣旨で、競走馬を巡る前議員からの資金提供の求めに応じ続けたとした。

これに対して弁護側は、秋本前議員は再生可能エネルギー政策にもともと関心を持っており、国会質問は依頼を受けて行ったものではないなどと主張している。

前議員もこの日の公判で現金の受領は認めた上で、「国会質問などの職務とは関係がなく利益供与されたものではない」などと反論した。塚脇元社長から受け取った現金は2人が共同で設立した競走馬の組合を通して馬の購入費などに充てたとも語り「元社長の夢の実現に協力しただけ」として現金の賄賂性も否定した。

元裁判官で法政大法科大学院の水野智幸教授(刑事法)は「秋本前議員は従来から再生エネ分野に関心を持っていたとされ、国会質問が請託によるものだと認定されるには、具体的・客観的な証拠が必要になる。贈賄側と収賄側の双方が否認しており、検察側の立証のハードルは決して低くはないだろう」と話す。

起訴状によると、秋本前議員は塚脇元社長から同社の風力発電事業に関する国会質問をしてほしいと依頼され、見返りとして19年3月〜23年6月に計約7200万円の賄賂を受け取ったとされる。塚脇元社長は3年の公訴時効が成立していない約4100万円分の贈賄罪に問われている。

前議員は20年、新型コロナウイルス持続化給付金200万円を詐取したとする詐欺罪にも問われており、同罪についてはこの日の公判で「争わない」として起訴内容を認めた。

急拡大の再エネ市場、国の政策決定への影響も焦点に

政府が推進する再生可能エネルギー政策を舞台とした今回の汚職事件。検察側は公判で秋本真利前衆院議員と所管する経済産業省側とのやりとりについても立証する方針とみられ、国の政策決定への影響についても審理の焦点となりそうだ。

政府は2019年、再エネ海域利用法を施行し、一般海域で洋上風力発電用の風車を建造するルールが整備された。政府が指定した「促進区域」で洋上風力発電事業者を公募し、落札した事業者は30年間占有して発電できる。安定的な売電で累計数千億円規模の売上高が見込めるとされる。

矢野経済研究所(東京・中野)の国内の洋上風力発電の市場規模予測では20年度の20億円から25年度には3970億円まで膨らむ。30年度には9200億円とほぼ1兆円の巨大市場へ発展すると見込む。

20〜21年の第1弾の公募では、秋田県沖と千葉県沖の3区域を大手商社連合が総取りした。売電価格や稼働時期などを基準として選定。商社連合が評価されたのは、価格の低さだった。

この結果に不満を募らせたのが当時、塚脇正幸元社長が率いていた日本風力開発など中小の事業者だったという。同社も2海域で応募していた。「大手に対して価格の安さで対抗するのは難しい。稼働時期の早さなら競える」(業界関係者)といった声が上がっていた。

同じ頃、塚脇元社長は再エネ政策の旗振り役だった秋本前議員との距離を縮めていった。同社はすでに海域での環境調査も進めており、迅速な稼働を強みとしていた。

22年2月の衆院予算委員会。秋本前議員は「第2弾の公募から評価の仕方を見直してほしい」と政府側に求めた。そして約8カ月後、稼働時期の早さも重視する形で選定基準が改定された。経産省は「適正な手続きにのっとって基準が変更された」としている。

洋上風力発電は、21年に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」では、再エネの主力電力化に向けた「切り札」と位置付けられた。直近では青森・山形県沖を対象とした第3弾の公募が24年7月に締め切られ、年内にも事業者が選定される見通し。

現行法では発電施設の設置場所は領海などに限られるが、政府は同年3月、排他的経済水域(EEZ)への設置を可能にする再エネ海域利用法の改正案を閣議決定。法改正で対象エリアが拡大すれば、活用がさらに進む可能性がある。

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