引退した競走馬の居場所をつくりたい―。そんな思いから、元調教師の栗林信文さん(57)が今春、神奈川県から福島県に移住し、馬の余生を支援するNPO法人を設立した。農園を併設し、馬ふんを堆肥として用いた農業にも挑戦。「多くの人に引退馬に関心を持ってほしい」と願う。(共同通信=堺洸喜)
周囲を山に囲まれた福島県南部の鮫川村。東京ドーム1個分ほどの土地の一角に4頭の馬が放牧されている。うち2頭は栗林さんが調教師時代から世話をしている元競走馬で、レース中のけがや年齢が理由で引退した。今は村で伸び伸びと過ごしている。
栗林さんは20代から川崎競馬場(川崎市)の厩務員として勤務し、2011年に調教師になった。多いときには17頭の世話をしたこともある。
人に飼育される競走馬の寿命は25年ほどとされるが、中央競馬で活躍できるのは5年前後。地方競馬でも長くて約10年という。農林水産省によると、競走馬の登録が抹消された馬は、乗馬用や繁殖馬として活躍するなどの道がある。一方、引退競走馬の待遇改善に取り組む財団法人によると、所在不明になったり、食肉処理されたりする馬もいるという。
栗林さんによると、馬の管理には餌代など多額の費用がかかるため、引退後、必ずしも最期まで面倒を見てもらえるとは限らない。そんな現状を知り「少しでも多くの馬が天寿を全うできる場所をつくりたい」と決意した。飼育に適した広い土地を探して福島を紹介され、今年4月に調教師を辞めてNPO法人「お馬のお家」を設立。月4万6200円で馬の預託を受け付けている。
「ただ馬を預かるだけでなく、人の役に立つことをしたい」。そう考えて農業にも力を入れる。現在は栃木県の知人から譲ってもらった馬ふんを堆肥として利用し、ニンジンや大根を栽培。今後は、預かった馬の馬ふんも利用する予定だ。引退馬の一生を応援してくれる人を「お馬の家族」と名付けて月に1口当たり3千円の支援を募り、お礼として定期的に野菜を届ける。さらに一般向けにインターネットでも野菜を販売する意向だ。
栗林さんは「馬ふんを堆肥に使うと野菜の味も色づきも良い。ぜひ味わってほしい」と話している。
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