「ねえ ミルク またふられたわ 忙しそうね そのまま聞いて」
失恋話をマスターに語りかけるシンガー・ソングライター、中島みゆきさんの「ミルク32」。曲中で描かれる喫茶店「ミルク」(札幌市東区)が10月、開店50年を迎えた。ライブ喫茶として地元のバンドマンを見守ってきた店は今、看板猫たちと共に音楽と猫を愛する人々の憩いの場となっている。(共同通信=羽場育歩)
9月下旬、窓際でまどろむ看板猫「チビ」に導かれるように扉を開くと、レコードやCDで埋まる棚を背にマスターの前田重和(まえだ・しげかず)さん(77)が静かに出迎えた。数十年来の常連や近隣の大学生らがゆったりと談笑する。初めは中島さんのファンとして来店したという山内基康(やまうち・もとやす)さん(60)は、店から子猫を譲り受ける猫ファンに。「元々は犬派だった」と笑顔でチビをなでた。
高校時代にフォークソングを歌い始めた前田さん。日本語のフォークを広めたいと主催したコンサートの出演者の1人が、北海道出身で市内の藤女子大に通っていた中島さんだ。「既に完成されていた。歌うと別人に憑依(ひょうい)されたようだった」。その力強さに、観客は椅子に縛り付けられて立てないようだったという。
ライブハウスが少なかった当時、歌える場所を作ろうと仲間と8カ月かけて内装を手がけたのがミルク。中島さんが歌うことはなかったが、時折訪れてココアを注文。前田さんが削る氷のかけらが服にかかった出来事も曲に盛り込んだ。
数年後、前田さんが近くに設けたスタジオには、竹原ピストルさんやバンド「怒髪天」「サカナクション」のメンバーも通ったが、バンドマンが店に集う光景は次第に減った。一面がバンドのポスターだった壁は今、客が撮った歴代の猫の写真で埋まる。前田さんは「バンドが猫に負けた」と苦笑しながらも「いいバンドが出てくるのを待ってる」と優しく笑った。
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