リモートワーク中にみずから命を絶ったのは、都内の商社に勤めていた高畠新さんで、4年前、32歳で亡くなりました。
労働基準監督署の調査や両親によりますと、北海道小樽市で育ち道内の企業で働いていた高畠さんは亡くなる1年ほど前の2019年4月に転職し、都内で1人暮らしをしていました。
その後、新型コロナウイルスの感染拡大で2020年3月、勤務先の会社に在宅勤務が導入され、仕事はメールや電話でのやりとりが中心となりました。
リモートワークについて高畠さんはSNSに「在宅ワークがきつい」とか「在宅で始業前に緊急対応したため朝ごはんを食べ損ねた」など、環境への変化や仕事が思うようにはかどらない苦悩をつづっていました。
経理の担当で、同じ月の下旬からは決算業務が重なって休日勤務もするようになり、労働基準監督署の調査ではこの1か月間の時間外労働は前の月より20時間以上増加していました。
さらに、リモートワークを続けながら、6月には担当が代わったことで負担感や繁忙感が高まり、SNSに「こなしているのに仕事が減らない」とか「食欲がない」といった投稿をしていました。
そして「つらさと死が強すぎる」と投稿した2020年8月、会社のリモート会議の直後に自宅で亡くなりました。
労働基準監督署は、リモートワークが導入されて在宅勤務が始まり、その中で業務量の増加や、配置転換があったことを総合的に判断し、高畠さんが気分障害を発症していたとして、おととし労災と認定しました。
会社はNHKの取材に対して「リモートワークは始業と終業の際に上司へ電子メールで報告して労務管理を行っていた。社員のメンタルヘルスケアの充実を含め、労働環境の改善に努めたい」とコメントしています。
高畠さんの父親・賢さんは「リモートワークは便利な面もありますが、会社の同僚や上司とコミュニケーションを取ったり、何かを調べたりするにも何かとストレスがたまると思います。リモートワークのつらい感じが息子のSNSからかいま見えます。何か不調があるときは周囲に訴えてほしい」と話していました。
母親・陽子さんは「何につけても頑張る真面目な子で、仕事でもちゃんとやらないと気がすまないという性格だったと思います。家族はうっとうしいと思われても大丈夫かと声をかけるべきでした。『死にたい』ということがちらついたらそこから逃げてほしいです」と話しています。
専門家「相手の立場を思って対話を」
職場のメンタルヘルスに詳しい産業医科大学の江口尚教授はリモートワークについて「オンラインの会議は対面の会議と違い、受け手の情報量が少なく気をつかうことも多く疲れ方や集中力も違ってくる。また、お客さんと厳しいやり取りをしても、誰かのフォローがなければ孤立したり孤独になってしまったりする。そこでリモートワークの時は、相手の立場を思って対話することが大切で、安心感を得られるようなコミュニケーションを意識的にとっていくことが重要だ」と指摘しています。
厚労省が対策をガイドラインで紹介
厚生労働省はテレワークでのメンタルヘルスや長時間労働の対策についてガイドラインをつくりホームページで紹介しています。
このうち「テレワークにおけるメンタルヘルス対策のための手引き」では、各企業での先進的な取り組みや好事例を紹介するなかで
▽定期的に面談などをし働き方や心身の状態をチェックすることや
▽会社から家族に働き方の特徴や注意点を伝え、異変があったときは会社に相談してほしいと呼びかけることなどをポイントとしてあげています。
また、長時間対策については「テレワークの適切な導入および実施の推進のためのガイドライン」のなかで
▽勤務時間外にメールを送らないことや、社内のシステムに接続できないようにすること
▽管理者が労働時間を記録するなどして労働者に注意喚起することが有効だとしています。
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