83回目の学科試験に合格し、ハイヤードライバーとして活躍するハッサン・カリムさん=東京都文京区で

 タクシーやバスの運転に必要な第2種免許で、警視庁が4月下旬から英語の学科試験を始めた。運転手の高齢化や人手不足に悩む業界からは、外国人が免許を取りやすくなることに歓迎の声が上がる。日本語の試験しかなかったときに、83回目の受験でやっと合格したガーナ出身のハイヤー運転手ハッサン・カリムさん(49)は「英語の試験が始まったのは良いこと。だけど、大事なのは免許を取ったあとだ」と話す。(佐藤航)

◆ガーナ出身、タクシー大手で都内を走る

 「合格の掲示板に自分の番号が出たけど、とても信じられなかった」。タクシー大手の日の丸交通(東京都文京区)所属のハッサンさんは、第2種免許を取った2022年の夏の日を今も忘れることができない。  06年に来日。スーパーや電子機器販売の仕事を経て、話し言葉の日本語はほぼ覚えて、21年9月に日の丸交通に入った。英語の学科試験がある第2種免許は入社前に取得済み。「長い休みが取りやすい」という理由でタクシー運転手を志したが、待っていたのは日本語試験の高い壁だった。

◆努力で高い壁を克服…同僚は吉報を泣いて喜んだ

 「路側帯」や「対向する」など、日常会話では使わない交通の専門用語が分からない。文末まで読み切らないと正確な文意が理解できない引っかけ問題にも手を焼いた。最初のころは100点満点で50、60点しか取れず、合格ラインの90点に遠く及ばなかった。  友人に音読してもらった例題を録音し、毎日寝る前に聴いた。休みの日も勉強した。不合格が続いて心が乱れ、試験に集中できない時期もあった。初受験から10カ月。ついに掲示板で自分の番号を見つけた。会社に報告すると、電話口で担当者が泣いていた。

◆業界団体の要望もあり、警察庁が動いた

 それから1年半。外国人運転手を増やしたい業界団体の要望もあり、警察庁は今年2月、第2種免許試験向けに英語や中国語などの問題例を全国の警察に配り、外国語試験を始めるよう促した。3月末の福岡を皮切りに、英語などの試験を実施する警察が徐々に増え、警視庁も4月24日から都内3試験場で週1回の英語試験を始めた。  日の丸交通に所属する外国籍運転手の120人で、誰より多く試験を受けたハッサンさんは語る。

◆無違反を継続「免許の大切さ誰よりも知っている」

 「私は83回も受けたから、免許の大切さを誰よりも知っている。だから安全運転を心がけている」  言葉通り、プロになって違反は一度もない。偶然にも自らの名前を連想させる「83」の数字を、ちょっぴり誇らしげに強調してみせた。

 第2種免許 乗り合いバスやタクシーなどの旅客運送や代行運転に求められる免許で、旅客を乗せない第1種免許と同様に車両重量などに応じた区分がある。警察庁によると、2023年末現在の普通2種免許の保有者10万561人のうち、外国籍の人は3811人だった。今春から始まったライドシェアの運転手は第2種免許不要。



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