1杯350円。昭和レトロのたたずまいで人気を集める、うどん・そばの自動販売機が絵本になった。6日刊行の「ぼくは ぽんこつ じはんき」(あさ出版)。秋田港に50年ほど前から置かれている年季の入った自販機と街の人々を巡る物語だ。

 自販機はもともと、船に積む食品を扱う商店の店先にあった。2015年、冬にうどんを求めて訪れるお客さんの人模様を描くテレビ番組で有名に。翌年、商店の閉店で撤去されそうになると、惜しむ声が高まり、近くの「道の駅あきた港」に移って残った。絵本には、この存続のエピソードが織り込まれている。

 商店を切り盛りしていた佐原澄夫さん(73)が、今も道の駅のスタッフとして管理している。秋田を出て就職した人が帰省して立ち寄ってくれたときなど、「思い出にしてくれている。長く続けてよかったと思う」。

 古い自販機は故障も多く、予備機から部品を抜き出すなどして修理してきた。今では2台が1台になった格好だ。「この自販機もいつまで持つか分からない。だけど、だめになったって絵本で残る。ありがたい」

 県外のお客さんも多く、道の駅あきた港によると、週末には150杯以上売れる日があるという。

 絵本の文を書いた作家の由美村嬉々さん(65)=本名・木村美幸、さいたま市=もテレビ番組を見た。「冬の東北。そこでうどんがおなかも心も温める。じーんときて、何かの形でまとめたい」と引きつけられた。

 秋田に足を運んで取材を重ねた。登場する親子や恋人たちは実際に見聞きした人たちがモデルになっている。お湯が切れれば、沸くまで約40分かかる。それでもお客さんは「仕方ないな」と待っている。そんな光景を見た由美村さんは思う。

 「ぽんこつだっていいんですよ。弱みを隠さず、一生懸命にフル稼働していると、みんなが支え、愛してくれる。どこか人くさい自販機です」

 絵本はAB判、40ページ、1540円(税込み)。(隈部康弘)

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