日本リーグ、Vリーグと看板は変わり……
日本に初めてバレーの国内リーグが誕生したのは1967年のことだ。その3年前の東京五輪では、「東洋の魔女」と呼ばれた女子日本代表が金メダルを獲得。バレー人気が高まり、国内きっての大企業が自社のチームを編成し、新リーグに次々と参戦した。
1964年東京大会、金メダルを争い「東洋の魔女」と呼ばれたバレーボール日本女子。右は旧ソ連の選手(共同)
変化が表れたのは90年代だった。サッカーは93年にプロ化に踏み切り、地域密着のJリーグを創設した。これに刺激を受けたバレーも、94年に日本リーグを発展的に解消し、Vリーグと名称を変えた。
ところが、Jリーグと違ったのは、プロ化を実現できなかったことだ。従来の企業チームが中心となった運営が続き、ファンにはサッカーほどの「改革」イメージを印象づけられなかった。
追い打ちを掛けたのが、日本経済のバブル崩壊だった。そのあおりを受けて、各企業が運動部の休廃部を次々と決定した。日本のバレー界を率いてきた男子の富士フイルムや日本鋼管、女子の日立やユニチカなどが相次いで消滅していった。
そのような社会情勢の下、男子の新日鉄堺がクラブチーム「堺ブレイザーズ」として再スタートするなど、新しい動きもあった。2016年には「スーパーリーグ」というプロリーグを2年後に創設する構想も打ち出された。だが、プロ化の賛同は得られず、企業チーム中心のリーグ運営から脱皮することはできなかった。
「SVリーグ」の名称に込められた理念
昨季までのVリーグが再編され、新リーグは1部を「SVリーグ」、2部を「Vリーグ」と呼ぶことになった。SVリーグには男子10チーム、女子14チームが顔を並べる。「S」は、「Strong、Spread、Society」の3つの頭文字であり、「強く、広く、社会とつなぐ」との理念を示している。
開幕前の記者会見で、大河正明チェアマンは「世界最高峰のリーグを目指した新たなスタートです。バレーボールの魅力を存分に楽しんでいただきたい」と述べた。
SVリーグの開幕を前に、記者会見した選手ら。前列中央は大河正明チェアマン=2024年9月30日、東京都港区(時事)
サッカーのJリーグやバスケットボールのBリーグの運営に携わった経験を持つチェアマンである。では、どんな基準で「世界最高峰」を目指すというのだろうか。
大河氏の説明によれば、経営力やガバナンス力を強化し、総入場者数、総売り上げで世界最高峰を目指すという。その上で、加盟チームが世界クラブ選手権で優勝し、五輪やネーションズリーグに出場した各国代表選手の数が一番多いリーグになることが目標だ。
パリ五輪で日本代表が大きな注目を集め、追い風が吹く中でSVリーグはスタートを切った。男子の開幕戦は地上波のフジテレビで生中継され、リーグ戦全試合は男女ともCS放送のJ-Sportsで放送されている。
ただ、以前との違いが分かりにくいとの指摘もある。チーム編成に関わる部分では外国人選手の出場枠が増えたが、ファンでない一般の人を含め、SVリーグの発足が広く認知されているかといえば心もとない限りだ。
男子では「大阪ブルテオン(旧パナソニック)」、「広島サンダース(旧JT)」、女子では市民クラブを掲げる「岡山シーガルズ」や独立採算型の「ヴィクトリーナ姫路」など、企業名を名乗らないチームも増えてきた。だが依然、全体的には企業スポーツの色合いが残り、刷新感をアピールするのに苦労している様子だ。
欧州リーグはEU統合で活性化
一方、プロ化に成功しているイタリアなど欧州では、各国の選手が入り交じり、「多国籍化」が進んでいる。例えば、日本のエースである石川祐希が所属するイタリア・セリエAのペルージャでは、14人のメンバー中、7人が外国籍の選手だ。クラブのウェブサイトによると、日本の他にポーランドやウクライナ、キューバ、アルゼンチン出身の選手がいる。
バレーボールイタリア・セリエA男子スーパーリーグのトレンティーノ対ペルージャの試合で笑顔を見せる石川=2024年10月27日(IPA Sport/ABACA/共同通信イメージズ)
このような潮流は、バレーに限ったことではない。EU(欧州連合)統合に伴い、1990年代後半から欧州のスポーツ界ではEU内の選手であれば、自由に移籍できるようになった。一般の労働者と同じ取り扱いとなったのだ。とりわけサッカーでは移籍市場が活性化し、各国のレベルが上がった。さらに有料放送の普及でクラブに多額の放映権料が入るようになり、選手の移籍金も高騰。ビジネス規模が拡大された結果、EU外の国からも選手が集まるようになった。
それだけではない。欧州のスポーツ界は地域に根ざして発展を遂げてきた歴史がある。それぞれのクラブは地元の熱心なファンに支えられ、外国出身の選手たちにも「わが町の代表」として声援が送られる。スタジアムやアリーナを埋める観客の入場料収入が、ビジネスを展開する上でも基盤になっているのだ。
求められる地域での普及活動
日本も、ビジネス規模を拡大するのであれば、地域の土台が必要だ。サッカーは、スポーツ少年団が発足した当初から各地での競技普及に力を入れた。バスケットも小学生向けの「ミニバス(ミニバスケット)」を広め、底辺層の拡大に注力してきた。それがJリーグやBリーグの成功につながっている。
しかし、多くのスポーツは学校の部活動と企業スポーツが中心であり、地域への浸透に苦慮している。バレーもその一つだろう。
笹川スポーツ財団の昨年の調査「子ども・青少年のスポーツライフ・データ」によると、バレーを「年1回以上」したことがある10代の推計人口は181万人。2001年の調査では279万人だったのが、20年余りで100万人近くも減ったということになる。
少子化が進む中、多くのスポーツで競技人口の減少が叫ばれている。急速に競技の裾野がしぼんでいけば、当然ながら観戦人口も減っていき、ビジネス展開は難しくなるのではないか。
15歳以下のユースチーム保有を義務づけ
文部科学省は、昨年度から公立中学校の部活動を地域のクラブに移す取り組みを始めた。一番の課題は、部員の指導や引率で週末も休めない教員の負担だ。しかし、現状ではその役割を引き受ける地域の指導者や受け皿となる組織は少なく、改革は難航している。
SVリーグでもこうした問題の改善に目を向けるべきだ。新リーグに加盟するクラブへのライセンス交付にあたっては、15歳以下(U15)のユースチーム保有を義務づけている。今後は育成や普及の活動をさらに拡充し、競技環境の整備に力を入れてほしいものだ。
これまで日本のバレー界は、代表チームの活躍を起爆剤にして注目を集めてきた。だが、4年に1度の五輪だけで普及を進めるにも限界がある。タレントのように扱われる選手に頼るばかりでは、人気も長続きしないだろう。
リーグの発展には、最高級の選手とプレー、ビジネスの成功が欠かせない。ただ、その条件をそろえて持続させていくには、1人でも多くのバレー少年や少女を育て、長く親しんでくれるファンや愛好家を増やす必要がある。「世界最高峰」への近道はない。足元を見つめ、地道な努力を続けるほかないはずだ。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。