高浜原発1号機は1974年11月14日に国内の商業用の原発では8番目に運転を始めましたが、先に運転を開始した原発はすべて廃炉になっていて、現在、運転中の中では最も古い原発になっています。

最長60年までの運転期間の延長が認められていて、10月には、今後10年間の施設の劣化状況を考慮した管理方針を盛り込んだ「保安規定」の変更が原子力規制委員会から認可されました。

そして14日、国内の原発で初めて、運転開始から50年を超えました。

運転の長期化に伴って安全性の確保が課題となり、高浜原発1号機では原子炉内の構造物を取り替える大規模な工事を行うことや取り替えが難しい原子炉容器の劣化状況を調べる試験を行うことなどを決めています。

政府は、エネルギー安全保障や脱炭素社会の実現のため原発を最大限活用する方針で、去年5月には法律が改正され、最長60年という原発の運転期間から原子力規制委員会の審査などで停止した期間を除外することで、さらに延長できるようになりました。

高浜原発1号機は関西電力が申請して認められれば初めて60年を超えて運転する可能性があります。

高浜原発1号機とは

福井県高浜町にある関西電力・高浜原子力発電所1号機は、1974年11月14日に営業運転を開始した、国内で運転している最も古い原発です。

「PWR」=「加圧水型」の原発で、発電出力は82万6000キロワットと、一般家庭、およそ176万世帯分の消費電力をまかなえます。

2011年の定期検査中に起きた東京電力・福島第一原発の事故を受けて運転を停止していましたが、2015年に新しい規制基準の審査を申請し、翌年合格しました。

また、原則40年とされている運転期間を最長20年延長することも認められ、安全対策工事を行ったうえで、去年7月に12年ぶりに再稼働しました。

高浜原発1号機は50年以降の10年間の管理方針で、原子炉内の構造物を取り替える大規模な工事を行うことや、取り替えが難しい原子炉容器の劣化状況を調べる試験を行うことなどを決めています。

来年6月には新たな規制制度が施行され、30年以降、10年を超えない期間ごとに、従来の管理方針に加えて、製造が中止された部品への対応などを盛り込んだ管理計画を策定し、規制委員会の認可を受けることが必要になることから、高浜原発1号機についても現在、計画の審査が進められています。

高浜原発の対策は

運転開始から30年を超える原発は10年ごとに重要な設備の劣化状況を評価することが義務づけられていて、劣化がみられたり、劣化が予測されたりした設備については、交換したり、補強したりして安全性を確保することになっています。

高浜原発では、劣化すると火災の原因となる電気ケーブルについて、1号機と2号機あわせてのべ1300キロメートルを、燃えにくいケーブルに交換したり、防火シートで覆ったりして対策をとってきました。

また交換が難しい原子炉本体については、あらかじめ内部に設置していた試験片を定期的に取り出し、劣化状況を調べることで状態を監視しています。

使われている技術が古くなりメンテナンスが難しくなるケースもあります。

高浜原発1号機では原子炉の運転や監視を行う中央制御盤はアナログ式でしたが部品の製造中止などで維持管理が難しくなるとして、2020年にデジタル式に交換しました。

高浜原発 棚橋所長「安全向上に努めていきたい」

関西電力・高浜原子力発電所の棚橋晶所長は運転が長期化するなかで安全性をどう確保していくかについて「交換できるような部品は全て交換していく。原子炉容器など交換できない部品もあるのでいかに管理して、安全であることを確認しつつ使っていくかが重要だ。アメリカでは既に50年超のプラントがいくつかあるし、80年のライセンスをとっているプラントもある。そうした知見を勉強しながら取り入れてさらなる安全向上に努めていきたい」と述べました。

また、去年5月の法律改正で60年を超えた運転が可能になったことについて「わが国は資源の乏しい国なので、既存の原子力プラントは安全確保を大前提にして有効に活用していきたいとわれわれは思っている。60年を超えた運転は技術的には可能かもしれないが今後、総合的に判断していきたい」と話しました。

国内と世界 原発の長期運転

国内に33基ある原発のうち、福井県にある関西電力の高浜原発1号機が14日、運転開始から50年を超えたほか、これまでに同じく福井県にある関西電力の高浜原発2号機と、美浜原発3号機、それに鹿児島県にある九州電力の川内原発1号機の3基が、40年を超えて運転しています。

また、再稼働はしていませんが、茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発も40年を超える運転延長を認められています。

このほか、運転期間が30年以上40年未満の原発は国内に18基あり、運転開始から30年以上の原発が全体の3分の2を超えています。

日本では、原発の運転期間は原則40年で、1回に限って20年までの延長が認められていますが、去年の法改正で、この制限は維持しつつ、経済産業大臣が認可すれば原子力規制委員会の審査などで停止していた期間を運転期間から除外することで実質的に60年を超えて運転することが可能となりました。

原発の長期運転は、世界的にも長期化しています。

日本原子力産業協会の今年1月現在のまとめによりますと、世界の原発433基のうち、運転開始から40年を超えているのは4分の1を超える125基で、このうち50年を超えているのは26基です。

最も長いのは54年を超えた4基で、インドのタラプール原発1号機、2号機、アメリカのナインマイルポイント原発1号機、スイスのベツナウ原発1号機です。

原発の数が最も多いアメリカでは、50年を超える原発も最も多く、16基となっています。

アメリカでは、原子力発電所に対し、原子力規制委員会が40年の運転許可を与えますが、審査に合格すれば、これを超えて20年ごとの延長が認められています。

延長の回数に制限はなく、93基の原発のうち82基が60年までの運転を認められています。

さらに2基が、2度目の運転認可更新の承認を受けて80年の運転が可能になっています。

また、原発の数がアメリカに次いで多いフランスでも、56基の原発のうち、40年を超えているのは22基と、全体の39%に上ります。

「老朽化」によるリスクと研究

原発を長期間運転すると放射線や熱の影響でさまざまな機器や設備が劣化するいわゆる「老朽化」が進みます。

例えば、鋼鉄製の原子炉は核分裂で発生する中性子によってもろくなるほか、金属製の配管は中を流れる熱水や蒸気による浸食や腐食で厚さが薄くなり、ケーブルは熱などで性能が低下します。

また、コンクリートの構造物も熱や放射線によって強度が低下する可能性があります。

老朽化によるトラブルとしては、2004年に福井県にある関西電力の美浜原発3号機で起きた配管の破断事故があり、吹き出した蒸気などで作業員5人が死亡しました。

破断した配管は、運転開始以来点検が行われていなかったことが原因でした。

各地の原発では老朽化に対応するための対策がとられていて、電力会社は、機器や設備の点検に加え、原子炉周辺の構造物の取り替えを行っています。

一方、交換できない原子炉については、劣化状況を調べるため、同じ材料を使った「監視試験片」が運転を始めた当初から設置されています。

各社は試験片を定期的に取り出して、あえてたたき割る試験などを行い、どのくらい強度が落ちているのか調べています。

この結果をもとに、今後の劣化の進み方を予測していて、その結果は、原発の運転期間の延長を認めるか判断するための審査などに使われています。

民間の研究機関「電力中央研究所」によりますとこれまでの研究で、60年程度まで運転したときの劣化を予測することができるようになっているということで、現在は、それ以上運転する場合の劣化を予測できるよう、試験片を原子レベルで精密に分析する研究を進めているということです。

ただ、運転当初から設置している「監視試験片」は数に限りがあり、今後60年を超えて運転することになった場合は、足りなくなる可能性があります。

これに対応するため、一度使った試験片を小さく加工して数を増やし、原子炉に入れ直して再び使う方法が研究されているということです。

専門家「コストよりも安全が重要」

経済産業省で旧原子力安全・保安院の審議官などを務めた政策研究大学院大学の根井寿規名誉教授は、アメリカなど世界で原発の長期運転が行われていることについて、原発は建設コストが高いと指摘した上で「新たな建設が難しい中で、温室効果ガスを排出しない電力源を一定程度確保しようとすると、原発の長期運転を取り入れるしかないという判断になっている」と述べ、脱炭素化への流れが背景にあると指摘しています。

そして今後の見通しについて「アメリカではすでに80年の運転のラインセンスを得た原発があり今も審査を受けている原発があるため、今後も増えていくのは確かだ。フランスや日本でも運転延長する原発が増えていくと考えられる」と話していました。

一方、安全性については「原子力規制委員会でルールが定められているので、電力会社が必要な対応をしっかりとることが大事だ。高浜原発でも原子炉内の部品を取り替える計画があるが、予防的に部品全体を取り替えるようにしている。コストよりもまずは安全が重要だと思う」と話していました。

原子力規制委 山中委員長「審査 慎重にしてきた」

原子力規制委員会の山中伸介委員長は高浜原子力発電所1号機が14日で運転開始から50年を超えることについて、13日の会見で、「高浜原発1号機の劣化状況や維持管理に関する審査については、これまで以上に慎重にしてきたつもりだ」と述べました。

また、制度上、60年を超える運転が可能となっていることについて、「60年、あるいは70年で基準に適合していれば認可するし、適合していなければ原子炉を停止してもらうということになるだろう。その時点で、設計上古くなっているところがないか、事業者と対話することが大切だ」と述べました。

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