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「災害時の動ける人材になりたくて」応募したのに
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消防団とは?
「災害時の動ける人材になりたくて」応募したのに
早速投稿者の女性に会いにいきました。
女性は50代、ことし東京・調布市に引っ越してきて、近所で見つけた消防団募集のポスターを見て、応募したといいます。
子どもの通う学校で開催される救護訓練にも参加するなど、防災に関心が高く、災害が起きた際に「地域の中で動ける人材になりたい」と考えていました。
応募の条件は市内在住か市内在勤・通学、年齢は18歳以上などとなっていました。
そこで早速応募したところ、「後日担当者から連絡が行く」と返信メールがきたものの、連絡はありませんでした。
不思議に思った女性が数日後、自治体の窓口に電話で問い合わせたところ「今、女性団員の募集はしていない」と言われたといいます。
「女性を募集してないのはなぜかと聞いた時に、『制服がなく、着替えるところがない』『以前にも女性の応募があったが断った』と言われました。震災や豪雨などの災害が起きる中で人手不足であれば、女性も一緒にやらなければことが進まないんじゃないかと思いました」
消防団とは?
そもそも消防団とはどんな組織なのでしょうか。
普段は仕事などを持っている人が、火災や大規模災害が起きた際には自宅や職場から現場へ駆けつけ、消火活動や救助活動を行ったり、防災の啓発活動をしたりします。
総務省消防庁によりますと、団員数はことし4月の時点で74万6000人余りとなっています。
団員は非常勤特別職の地方公務員として活動し、報酬も支払われ、阪神淡路大震災では、地域に密着した存在として救助活動で大きな役割を担ったとされています。
総務省消防庁も女性歓迎
総務省消防庁のホームページを見てみました。
すると、女性団員の活躍を取り上げた動画も掲載されていて、女性の入団を歓迎しているとなっています。
私たちは、女性が話してくれた内容について、調布市に確認しましたが、「個人の情報を含むので取材には応じられない」ということでした。
全国の「女性がいない消防団」調べてみると
こうした状況は調布市だけのことなのでしょうか。
調べてみると、「女性消防団員がいない団」は、去年4月の時点で、全国の消防団のおよそ2割に上っていました。
それでは、東京の62自治体ではどうなっているのか。
総務省消防庁が公開している去年4月時点のデータを見てみると※、男女の実団員数に対して女性の比率が高いのは目黒区の目黒消防団や立川市消防団、港区の芝消防団となっていて、およそ4割でした。
※総務省消防庁「あなたの街の消防団」より https://www.fdma.go.jp/relocation/syobodan/welcome/search/
これらの消防団では、地域にある医療系の大学と提携することで多くの女性団員を獲得できている傾向がありました。
その一方で、先月末時点で女性団員が1人もいない自治体は10ありました。
これがその一覧です。
▽檜原村 ▽日の出町 ▽三鷹市 ▽府中市 ▽調布市 ▽小金井市 ▽国分寺市 ▽新島村 ▽三宅村 ▽御蔵島村
女性不在の消防団 理由は
これらの自治体に取材をすると、その理由について以下のように答えました。
「女性用のトイレや更衣室がなく、ハード面での受け入れ態勢が整っていない」(小金井市、三鷹市、国分寺市)
「そもそも女性からの応募がない」(檜原村)
「20代から40代の男性は慣習的に入団しているが、女性も入団できることを知らない人が多いのではないか」(新島村)
「自分も女性を断った」前消防団長の証言
そのうちの一つ、人口25万人を超える府中市に話を聞くと「過去に女性からの応募を断った」と明かしました。
どうしてなのでしょうか。
私たちは、断った当時、消防団長だった男性にたどりつきました。
本間郁浩さんは35年にわたって消防団で活動し、ことし3月まで団長を務めて400人近い男性団員を束ねてきました。
本間さんは4年前、将来消防士になりたいという女子学生から「消防団が日々守ってきたこのまちに自ら貢献したい」と書かれたメールをもらったものの、応募を断ったといいます。
「いままで男性の社会に女性が少人数でポンと入ってきた時に指導する側も戸惑うでしょうし、男性の方が扱いやすいというか、パワハラやセクハラも消防団の中で起きないこともない」
ただ、今は当時の自分の判断をこう振り返ります。
「府中市のために自分が何か活動したいと思っている若い女性だったので、その思いを遂げさせてあげることができなかったというのは、当時もう少し何かやり方があったのではないかと思っています」
「女性でもやれる」女性が団長務める消防団では
一方、女性団員の比率がおよそ4割の東京・品川区。
この消防団ではこの春、都内で初めて女性の消防団長が誕生しました。
大谷敏子さんです。
消防団員として活動していた夫に影響を受け、およそ30年前に消防団に入団。
看護師の資格を持っていたことから、応急救護活動の普及に力を入れて活動し、この春、団長に就任しました。
大谷さんが入団した当時の団の女性団員は大谷さんを含めて2人だけでしたが、自らも「女性も活躍の場があるし、消防団で学ぶことは家庭でも役に立つ」と周囲の女性に積極的に声をかけ、団員を増やしていったといいます。
今月1日の時点では女性団員が98人にまで増えた品川消防団では、消防団活動の中で女性の果たす役割は大きいといいます。
「火災現場でも、交通整理をしたり消火用のホースをさばいたりと、女性でもできる仕事は多くあります。応急救護では、女性は男性が気がつかないような『どの姿勢がいいですか』『一緒に頑張りましょうね』という声かけができます。今の時代であまり男性だから女性だからというのはありえないと思うので、お互い人間同士だと思って受け入れることが大事だと思います」
かつて女性断った府中市 変わる対応
かつては女性の応募を断った府中市ですが、その後、方針を改めて今年度から女性団員の募集を始めています。
「災害時に消防団にも女性の視点は必要だ」という考えが浸透してきたことが背景にあるそうです。
先月の時点で、すでに8人の女性からの応募があると言います。
本間前団長も、女性団員受け入れのためには何が必要か、別の市の女性団員にヒアリングを行うなど尽力しました。
すると、トイレが男女共用であるなど、ハード面の整備が進んでいないことについては、本間さんが思っているほどハードルになっていないことがわかったと言います。
女性団員募集に特化したこのポスターは、70年の消防団の歴史の中で初めての試みです。
「今までずっと男社会でやってきたんだからという意識をまずなくす。ヒアリングの中で女性の方が消防団になりたいという人が結構いるし、女性だからこそできるようなきめ細やかなことがあるんだということを学びました。まだ女性がいない団でも、女性団員が入ってきたという仮定のもとに、どのような受け入れ態勢を取るのか話し合いを進めておかなければ、いざ女性が手をあげてくれた時に、何も対応できなくなってしまうと思います」
みなさんの意見・体験を
ことし、総務省消防庁がまとめた調査では、全国の消防団員の数は前の年度に比べて1万6000人減少していて、地域の消防団は今、団員の確保に苦労しています。
さらに、各地で災害に見舞われるケースが多くなる中、消防団の必要性は増しているといわれています。
そんな時代だからこそ、希望する女性が入団できることは地域にとっても重要です。
ただ、こうした問題は消防団に限らず、今もあることなのかもしれません。
みなさんの意見や体験をぜひこちらまでお寄せください。
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