能登半島地震から4カ月経ち復興に向けた議論が進むなか、石川県内を中心に活動する団体などが「議論にジェンダーの視点を」とする調査と提言をまとめ、1日、馳浩知事に手渡した。調査では、「男性ばかりの区長会や地縁団体の声が代表となってしまい、子どもや障害者などの多様な声が届かないことを強く懸念する」とする女性の証言などがしるされている。
地震後に結成された女性ネットワーク「フラはなの会」や公益財団法人「ほくりくみらい基金」など4団体が、3月~4月にかけて被災地の女性にヒアリング調査を実施。震災前から地域で就業や活動をしている10代~70代の13人に経験を聞いた。
調査によると、ヒアリングに参加した女性たちは自主防災組織の長や住民組織の区長などではなかったが、自主的に避難所に福祉スペースや子どもの居場所を作ったり、二次避難先で医療や行政、仕事のことなどの相談窓口を開いたりする支援活動を行っていた。男女が協力し合い、運営の負担が偏らない工夫をした避難所もあった。
その一方、介護や育児・看護といったケア労働が著しく女性に偏り、無償で長時間にわたって行われていたことも浮き彫りになった。避難所の運営において、女性や多様な人々のニーズが十分に把握されていなかったことや、家族・親族のケアのために出勤できず失職した女性がいたこともわかった。
ある30代の女性からは「避難所生活では、女性は高齢男性たちから『かあちゃん』として、地域の嫁として、用事を言いつけられる。避難所を出て在宅避難をし始めた知人の女性にも、避難所で炊き出しをするよう連絡が来ていた。若い世代からすると、そのような価値観は耐えられない」という声があった。
他にも、「避難所で下着をもらいたいときに、男の人が周りにいて見ていることがあった」「地震発生後トイレや風呂が整っておらず、デリケートゾーンがかゆいことや、膀胱(ぼうこう)炎になることをみんな話せず我慢していた。避難所に女性のリーダーがいて、その人に体のことを相談できる、ということが大事」という声もあった。
ある避難所では県外からの公務員の応援チームが10クールまで全部男性だったという声も聞かれた。調査に携わった「ほくりくみらい基金」代表理事の永井三岐子さん(55)は「災害時は平時の課題が凝縮してしまうので、平時をいかに男女共同参画にしていくかが大切だ」と話す。
復興にジェンダーの視点が必要なのはなぜか。
調査書では、性別だけでなく、年齢や障害の有無、家族構成などの要因によって「社会で不利な立場に置かれ普段から発言権が弱い人々の被害が大きくなりがち」と指摘。これらの格差を放置している社会では全体として被害が拡大しがちであり、格差や不平等への対策がなされないまま復興したのでは「災害に強い社会への復興にはならない」としている。住民組織の長に女性が圧倒的に少なく、平常時から女性が発言しにくい状況があったといった背後の構造的な問題をとらえることが、今後の復興に向けた知見となるという。
こうした結果をふまえ、提言では「復興計画の策定や実施にかかわる場では、女性を男性と同数とすること」「復興計画策定と施策の効果は、男女別データの収集及びその分析に基づき行われること」「性別や年齢、言語・文化的背景を問わず、誰もが情報にアクセスできるよう、わかりやすい情報の周知と発信ツールの多様化をする」など10項目を盛り込んだ。
調査に携わった、災害とジェンダーに詳しい静岡大の池田恵子教授は「女性たちは力を発揮していたが、意思決定の過程に女性が参画できていないなど、力を発揮できる場や環境が十分ではなかった。過去の災害でも同じことが繰り返されてきたこのままでは、若い世代の人たちがどんどん流出してしまう」と指摘。「女性も力を発揮できる社会の復興を目指し、女性がケア労働を担って当たり前という社会の文化が変わる必要がある」と話した。(大坪実佳子)
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