<ある受刑者と福祉、その後>③  人はなぜ罪を犯し、どう更生していくのか。ある男性の生涯を追った書籍「服罪—無期懲役判決を受けたある男の記録—」(論創社)が先月、出版された。男性は今、どう過ごしているのか。「その後」を4回に分けてお届けする連載の3回目。かつて服役した刑務所を記者とともに訪れた男性が、最後に「もうひとつ、どうしても行きたい所があるんです。いいでしょうか」とある場所に向かった。

◆「刑務所で亡くなり、帰る場所のない人が入る無縁仏です」

無期懲役をテーマに執筆した「服罪-無期懲役判決を受けたある男の記録」(論創社)

 刑務所を出て、徒歩5分もかからない小高い丘。街じゅうを見渡せる場所には墓地が広がっていた。塀で囲われた一角もあり、出入り口の鉄の扉は施錠されていた。扉の向こうには複数の墓石が並ぶ。どの墓標にも「合葬之墓」と書かれている。  仏花は朽ち果て、雑草は大手を振ったまま、手入れはされていないようだ。  「ここは、刑務所で亡くなって、帰る場所のない人が入る無縁仏です」と男性が説明する。そのまま手を合わせ、数十秒にわたって静かにこうべを垂れた。

◆「仮釈放が認められなければ、いつか私もそこに入る」

 男性が無縁仏の存在を知ったのは服役中だ。刑務所の施設整備を担う営繕係だったころ、同じ係の受刑者仲間から聞かされた。「このまま仮釈放が認められなければ、いつか私もそこに入る」。そう腹をくくって服役していたという。  ただ、思わぬ仮釈放が認められ、出所前に過ごす釈前教育で、男性は刑務官に願い出た。「無縁仏の清掃をさせてもらえませんか」  仮釈放の数日前、刑務官とともに、歩いて墓に出向いた。夢中で掃除したことはよく覚えている。「私は仮釈放で刑務所を出られるが、出られなかった人もいる。家族がいても同じお墓に入ることを拒否されてここに入った人もいる。仕方がないと思うが、何かできることをしたかった」。そして言葉を続けた。「ここに仲間がいる。仮釈放でつらいことがあると、よくここを思い出すんです」

◆閉じ込められているのではなく、守られている

 ただ、亡くなった後も、刑務所と同じように、厳重な鍵がかかる。記者が複雑な思いを伝えると、男性は力なく首を横に振った。  「被害者や遺族からすれば、安置されることでさえ、複雑な思いを寄せる人もいる。許せないと思うかもしれない。何らかのトラブルになる、そういった可能性を避けるために鍵はかかっているんだと思う」  閉じ込められているのではなく、守られている…。だとしても、死をもってしても尊厳は戻らないと、突きつけられているようで複雑な思いは消えなかった。  法務省によると、月平均で20人前後が刑務所内で亡くなっているという。刑務所ごとに無縁仏の合葬墓を用意しているといい、受刑中に亡くなり身寄りのない場合は、公費で火葬し、弔っている。  社会の片隅でだれに顧みられることもない無縁仏。その存在に、出所者たちが置かれている現状が重なって見えた。   ◇ <コラム・社会福祉士 × 新聞記者>
 社会福祉士と精神保健福祉士の資格をもつ記者が、福祉の現場を巡って、ふと感じたことや支援者らの思い、葛藤等々を伝えていくコラムです。社会の片隅で生きる誰かのつらさが、少しでも社会で包んでいけるように願って。(木原育子) 

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