オーストラリア政府が今月、16歳未満の交流サイト(SNS)の利用を法律で禁止する方針を発表した。子どもへの悪影響が指摘される中、日本でも携帯電話やゲームの利用を規制する似たような条例が制定されたが、定着しているとは言い難い。効果はあるのか。(宮畑譲)

◆「こちらには部活がないから…」

 「一度やり始めると、止めるタイミングが難しい。癖になってしまうと、本人も困るはず。親としては法律ができればうれしい」。オーストラリア東部のニューサウスウェールズ州在住で、地元小学校で日本語を教えているテイラー・さおりさん(53)が話す。

(イメージ写真)

 14歳の娘は友人との交流などにSNSを使っているが、40~50分に制限をしている。「オーストラリアでは、日本の中学生に当たる年齢で部活がない。学校から帰ってくると、ずっと使うことにもなりかねない。こちらでは、運動不足など健康面への不安が高いように感じる」

◆「正しい結果への手助けに」

 政府の法案は、子や保護者への罰則は設けないが、事業者にはアクセスを防ぐ措置を義務づけ、違反した場合は罰金を科す内容。アルバニージー首相は7日の会見で、法律によってSNSを巡る問題が全て解決するわけではないとしつつ、「未成年者が酒を買うことができない法律はときに破られるが、法律は正しい結果をもたらす手助けをしている」と述べた。  SNSの子どもの利用は、いじめや犯罪の温床になったり、暴力やポルノなどの有害コンテンツにさらされたりする弊害が指摘されてきた。米国の一部州やフランスなどでは年齢制限の動きがある。  直接的にSNSを禁じたわけではないが、日本でもこれまでに子どものネット利用を制限する条例が制定されている。

◆スマホ普及で「携帯規制条例」軟化

 2010年、石川県で防災、防犯以外の目的で携帯電話を小中学生に持たせないよう保護者に求める「子ども携帯規制条例」が施行された。罰則は伴わないが、所持の規制にまで踏み込む全国初の試みとして注目された。しかし、2022年には条例を改正し、所持規制を撤廃。理由について、県はスマートフォンの所持率や利用が増加し、「子どもを取り巻くデジタル環境が大きく変化した」と説明する。

いわゆる「ガラケー」(資料写真)

 2020年には、香川県がネットなどの利用時間の目安を定めた「ネット・ゲーム依存症対策条例」を施行。18歳未満のゲーム利用は「平日60分、休日90分まで」などと定め、保護者に家庭でのルールづくりを求める。  家庭に踏み込む条例への異論は多く、香川県弁護士会は「憲法の定める自己決定権を侵害する恐れがある」などと、条例廃止を求める声明を発表した。  現状では、日本でSNSの利用を法律で禁止するまで踏み込むにはハードルが高いようにもみえる。

◆禁止よりも効果がある対策とは

 子どものネット利用に詳しい、ITジャーナリストの鈴木朋子氏は「海外では、SNS上での遊びが高じて死者が出たこともある。オーストラリアも保護者から強い要望があったようだ。他国では日本よりSNSの弊害を深刻に受け止めている」と指摘する。  法的に規制をしても、年齢を偽ったり、SNS以外のアプリなどを使ったりして、完全に抜け穴を防ぐのは難しいと考える鈴木氏は「隠れて使う子が出るのも問題だ。ゲーム条例と同じような反発もあるかもしれない」と懸念を示し、こう提言する。  「強制的に禁止する前に、保護者や子どものネットへのリテラシーを高め、運営側にも対策を求める。長期的には、そのほうが効果があるはずだ」 

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