映画祭の打ち合わせをする日本大の学生たち=東京都練馬区で(松崎浩一撮影)

 国際情勢が混迷する今、声を上げる意味を考えませんか―。日本大芸術学部映画学科3年の学生たちが来月、抗議する人々に焦点を当てた国内外の作品を集めた映画祭を開く。端緒は、イスラエルのパレスチナ自治区ガザへの侵攻を巡る世界各地での抗議の広がりだった。デモと無縁だった学生たちの目に、「抗議運動」はどう映ったのか。(太田理英子)

◆ガザ侵攻に抗議する同世代を見て心が動いた

 4月、ニュースを見ていた同科3年の溝手連さん(20)は、米国の大学で学生たちがガザ侵攻に抗議する姿に目がくぎ付けになった。背景を調べると、米国にはイスラエル軍と関係の深い企業に投資する大学があり、戦争に加担しないよう求めていると知った。  抗議の動きは海を渡り、東京大や早稲田大など国内の大学にも拡大。即時停戦を訴える同世代の姿に「自分は安全な場所で教育を受けているだけでいいのか。虐殺を止めるために力になれないか」と考え始めた。

◆「今やるべきだ」

映画祭のテーマ「声をあげる」を提案した溝手連さん=東京都練馬区で(松崎浩一撮影)

 そのころ、所属するゼミでは12月に学生主体で開く恒例の「日芸映画祭」に向け、テーマ案を募っていた。抗議運動を前提にした「声をあげる」を提案すると、「今やるべきだ」と共感を集め、多数決で採用された。  ただ、15人のゼミ生の多くは社会運動との接点がない。理解を深めようと、それぞれイスラエル大使館前でのガザ侵攻抗議デモに足を運んだり、脱原発デモなど国内の運動を調べたりしたという。

◆「特定の集団に属した人の行動と思っていた」

 「デモは特定の集団に属した人の行動と思っていた」と話すのは清水千智さん(22)。福島第1原発事故直後の2012年、原発政策に反対する群衆が首相官邸前を埋め尽くしたと知り、「インターネットを通じて賛同者が膨れ上がり、こんなデモのあり方があるのかと驚いた」という。  今岡崇さん(20)は、過去に街中で見かけたデモは拡声器で大声を響かせていて「どこか物珍しく、冷ややかな目を向けてきた」と明かす。1960年代の日大の学生運動「日大闘争」のドキュメンタリー映画を見て、「当時、200日間も続いたなんて。今はSNS(交流サイト)で訴えても数日で終わってしまうし、声を上げ続ける難しさに気付かされた」。

◆社会で起きている問題を知るきっかけに

映画祭について語る、(左から)清水千智さん、今岡崇さん、藤井柚楽さん=東京都練馬区で(松崎浩一撮影)

 藤井柚楽さん(21)は、インドの被差別民の女性がスマートフォンを駆使し、記者として差別と闘うドキュメンタリー映画「燃えあがる女性記者たち」を通じ、「声の上げ方は路上のアピールだけでなく、実は多様な方法がある」と考えるようになった。  だが、共感されなければ声は広がらない。政治問題や他国での人道危機がわがことと捉えにくいのはなぜか、自問してきた。「情報があふれ過ぎて特定のことに焦点を当てにくいのかも。まずは社会で起きている問題を知ることから始めるのが大事」。映画祭は、そのきっかけになると話す。

◆渋谷「ユーロスペース」で12月7〜13日

 学生たちは映画祭での上映作品について議論を重ね、約100の候補から、「日大闘争」のほか、米国の「#MeToo運動」を生んだ性暴力告発を描いた「SHE SAID」、2000年代のイスラエルのヨルダン川西岸侵攻とパレスチナ人虐殺に迫る「沈黙を破る」など15作品に決めた。12月7〜13日、東京都渋谷区の「ユーロスペース」で各日4、5作品を上映。ゲストや観客を交えたトークタイムもある。

映画祭の打ち合わせで笑顔を見せる日本大の学生たち=10月24日、東京都練馬区で(松崎浩一撮影)

 自分なりの行動の起こし方を模索してきた溝手さんは「僕たちにとって、まずは多様な抗議を取り上げた作品を集め、伝えることが一歩。観客と一緒に考える機会にできれば」と意気込む。 

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